Novel | ナノ


  01 後生のために


暑い日差しが降り注ぐ本丸。
短刀と脇差、ほかの一部の刀剣男士達は涼みに簡易プールを引っ張り出して水遊びに勤しむ。
そんな中、審神者は扇風機しか冷房器具がない部屋で山積みになった書類と格闘していた。

私はつい数ヶ月前に水心子正秀と結ばれた。
水心子が初期刀として顕現し、そこから紆余曲折あったがお互いの気持ちを認め合い結ばれる事になる。
そして彼の親友である源清麿も私の本丸に顕現する事が出来た。
なんだかんだ私は公私ともに順調な生活を送っているのだ。
あの日までは──。

暑苦しい部屋で黙々と作業していると、近侍の清麿が部屋にやってきた。
「政府直々でお手紙だよ」
清麿から親展速達の茶封筒を手渡された。

「ありがとう、清麿。なんだろう?珍しいな」
「政府から直々になんて凄いね。表彰でもされ──」

頭が真っ白になる手紙だった。
一瞬私の見間違いかと思いもう一度目を通すが「これまでの成績を認め、後世のために優秀な審神者を残すために貢献してほしい」という手紙だった。それは問題ない。だが最後の一文に「また、近日中に時の政府で見定めた男性とのお見合いを予定しています。詳細は後日報告します」と書かれていた。
お見合いということは結婚する事になるのではないか?
手紙の内容の衝撃で思わず床に落としてしまう。
「そんな……」
声を震わせながら動揺していた様子に清麿は不審に思いながら、手紙を拾い私に尋ねる。

「落としたよ。何かあったのかい?」
「あっ、あ、ありがとう...」
「主?……ごめんね、読むよ。……これって」
「どうしよう。私、知らない男の人と結婚しなきゃいけないのかな……?」
「主はどうしたいの?」
「嫌に決まってるよ」
「わかった。そろそろ水心子が遠征から帰ってくる。それまで落ち着いて。きっと水心子ならどうにかしてくれる」
「うん……」

何が起きているか理解が出来なかった。
ただただ、書かれている内容をずっと見ていた。
何度見返しても「男性とのお見合い」という一文は消えない。
お見合いと書いてあるがほぼ結婚が決まったと同然だ。私はこのまま、顔も知らない男性と結婚しなければならないのか。
そんなの嫌だ。私は水心子のことが好きだから。こんなの絶対に間違えている。
抑えきれない焦燥感と困惑に私はどうにかしてしまいそうだった。
その後、仕事に戻ったが全く手が付かなかった。そして自問自答を繰り返していると、水心子が帰ってきた。

「みんな、おかえりなさい」
「おかえり」
「戻った。結果報告をするとしよう...。2人揃ってどうしたんだ」
「えっと……。とりあえず、報告を聞いたら話がしたいの」

水心子は目を細めながら「……承知した」と答え、淡々と報告をした。
だが、私にはその報告の中身は上の空だった。

「我が主。主!」
「主、水心子が呼んでるよ」
「あっ、うん、ごめん、何?」
「報告が完了した。……何かあったのか?だいぶ上の空だったが」
「……実は、その。さっき、政府から手紙が届いて、私の成績が認められて……」
「いい事じゃないか」
「近日中に男性とお見合いすることになっちゃった」
「え?」
「私、そんなの絶対に嫌だ」
「……そうか。良いんじゃないか」
「え?」
「水心子、主の置かれている状況わかっているのかい?」
「あぁ、わかっているが」

深く被った帽子と大きな襟で水心子の表情はわからない。
笑っているのか、怒っているのか、悲しんでいるのか、驚いているのか。
若竹色の瞳はただただ真っ直ぐと私を見つめていた。
付き合いが長くて彼のことは知っているつもりだったけど、今の彼はまるで出会った頃のように表情が読めない。
そして彼は続けた。

「……心のどこかでこの日が来るのはわかっていた。だが、やはり貴方は人と結ばれるべきだ」

私には死刑宣告のような言葉だった。

*****

「──という事が起きている。どうにか我が主の見合いを阻止したい」
「にしてもさー。そんな事言う必要なくない?」
「あるじさん、ショック受けてたんでしょ?酷いよ」
「うっ。だ、第一!我が主が勝手に辞退や拒否をすれば被害を被る可能がかなり高くなる。それを阻止するためには彼女に気付かれず、秘密裏に動くしかないんだ」
「だからってそれは理由にならないよ」
「本当にあるじさん、可哀想」

加州と乱は私を容赦なく批判し、心にその言葉はグサグサと刺さる。
確かに酷い事を言ったかもしれない。私の言動で我が主を傷つけたかもしれないが、守るにはこうするしかないんだ。

「それにあの場には清麿もいた。彼は感が鋭いから変に気付かれたくなかった」
「誰が感が鋭いって?」
「きっ、清麿!?いつからっ!?」
「最初からだよ。やっぱり水心子は主のこと大事に考えていたんだね」
「……それが何か?」
「いいや。で、作戦は決めているの?」

清麿はにこやかに私に尋ねる。
おそらくお見合い自体を中止するのは無理だろう。
だから、我が主にはお見合いに参加してもらう。
私達が会場に侵入し、変装した乱に我が主を呼び止めてもらう。そして、人目のつかないところで私から直接話の顛末を伝えて、性格の不一致などを理由に断りを入れてもらう。
それが私の作戦だった。

「リスク高っ」
「時の政府にバレたら大変だね」
「こうするしかない」
「あるじさんに作戦を伝えちゃダメなの?」
「敵を騙すならまず味方から、だ」

我が主の性格なら隠し事が出来ない訳じゃない。
ただ、我が主も人だ。
作戦を知っていれば、何かしらボロが出る可能性がないとは言い切れない。
私はそれも含めて可能な限りのリスクは切り捨てたかった。

「……頼む。私のわがままに付き合って欲しい。どうか我が主を見知らぬ男から守りたい」
「水心子。当たり前だよ」
「あーもー。わかってるって。やるよ、俺」
「ボクも頑張るよ!」
「面目ない。本当にありがとう」

加州達は私を励ますかのように、肩をポンと叩く。
もう時間は無い。出来る限りの準備をせねばならない。

bookmark / next

[ back to Contents ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -