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  05 江戸紫の縁


懐かしい写真に気を引かれていると、背後から泥のように眠っていた彼女からの視線を感じた。

「あれ、水心子、なんで...?」
「あまりにも起きてこないからな」
「うわっ、もうこんな時間!?昨日の徹夜が日中に響いちゃってるね。あれ、それ……」
「……こういったものを作っていたのだな」
「まぁね。私はみんなの仕事仲間だけど家族みたいなもんだからね」
「そうだな」
「まぁ水心子は私の恋人だけどね」
「……我が主よ、今は仕事中だ!」
「えへへ。外套、ありがとう」

肩に掛けたばかりの外套を受け取ると、ふわっと微かに彼女の香がした。
恋仲になってから我が主は私に事あるごとにちょっかいをかけてくる。
それを私は軽く遇らうが、別に嫌という訳ではない。

「我が主。先ほど政府から通達があり、久方ぶりの特命調査だ。場所は天保江戸。清麿を来週に迎える事が出来るかもしれない」
「えっ!?良かったね、水心子!」
「全くだ。1年以上待ったぞ」
「これで少しは清光に愚痴る回数減りそう?」
「それとこれは別だ」
「知ってる」

我が主は苦笑いしていた。
あの一件から加州や乱、本丸の刀剣男士達とこまめに会話をするようになった。
加州には相変わらず私の小言を聞いてもらっているが、内容は戦術や本丸の事になり、我が主の小言は減った。
乱とはよく風呂の時間が重なるので、その時に今日あった事を湯船に浸かりながら話すようにもなった。
本丸内の雰囲気はともかく戦闘での連携も増えて戦績はうなぎ登り。我が主は一眼置かれる審神者となった。
そのおかげか報告書以外の雑務が増えてご覧のあり有様ではあるが、日々精進している。

「我が主」
「なに?今から仕事するよ」
「この部屋は私が片付ける。近侍室は誰も来ない、ゆっくり布団を敷いて寝ていればいい」
「えっ、でも水心子にそんな事させるわけにはいかないよ」
「私は刀だ。あなたは人。人の身はいくらなんでも限度がある。刀の私には関係ない」
「……ふふっ」
「な、何がおかしい」
「あなたは本当に優しいね」
「なっ!?」
「じゃあお言葉に甘えてお部屋借りますね」
「あぁ」
「あ、そうだ」
「今度はなんだ」

主は私に詰め寄り、軽く頬に口づけをした。
予想外の事態に私は頭が真っ白になる。
その光景を見て、我が主は楽しそうに笑う。
あまりにも目が余る行動だ。
何もなかったように部屋から出ようとする我が主の左腕を引き寄せると、驚いたような顔をする。
「あとで覚えておくように」
そう耳元で呟くと、彼女の顔は見る見るうちに赤くなりその場を逃げるように立ち去った。

私と我が主の関係は、主従でもあり、同志でもあり、恋仲でもある。
刀と人は交わるべき存在ではない。
だが私は熟知しながら、ありのままを受け入れた。
これから先、私達にどのような道が遺されているか誰も知らない。
何があろうと私はこの縁を断ち切ることは絶対にさせない。

江戸紫色のアルバムを本棚に戻し、人気が無くなった部屋を片付け始めた。

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