Novel | ナノ


  04 こたえ


「おかえりなさい。御手杵」
「ただいま」
「任務完了までに予想以上に時間がかかったみたいだけど、大丈夫だった?」
「とりあえずなんとか。…あと悪いが接触しちまった。にしても主は昔も今も変わらないな」
「接触に関しては仕方ないわよ。歴史を歪めてしまうほどの事ではないから。…それにしても、まさか過去の自分が狙われるだなんて思いもしなかったな」
「そりゃそうだろ。歴史修正主義者の幹部クラスを倒すきっかけを作った人の1人だからな」
「まさかあのパフェのお店のオーナーが幹部だなんて誰が思う?あの時はまだ歴史修正主義者の存在すら知らない一般人だったんだけどね」
「あそこの売り上げが歴史修正主義者達の収入源ってのも虚しい話しだな」
「人間ってそういうものよ。みんな自分勝手」
「俺は、主が自分勝手だとは思わないけどな」
「それはありがとう」
「なぁ、主」
「何?」
「これ、覚えてるか?」
「…あ……」

御手杵が見せてきた左手にしていたのはブレスレットだった。
いつかの私が欲していたお揃いのブレスレットだ。
思わず私もブレスレットをしている左手を触ってしまった。

「そうだよ。俺が行った時にはこれを手に入れていた。懐かしいなぁ。あれからもう数年も経ったのに昨日の事みたいだ」
「本当に、早いわ。道理でおばさんにもなるわけよ」
「…当時の俺にはこれがただのフードファイトの景品にしか思えなかった。でも、主にとっては違ったんだな」
「え?…そ、それは…」
「主は変わりなかったけれど、過去の俺を見た時、今の俺とは何か違うと思った。まだ青臭いというか、自信はあるけど余裕はなさそうだった。…実は俺さ、「未来の俺」に出会った時からずっと考えていたことがあるんだ」
「え…?」
「あ。歴史を変えるような事は考えてないからな?それは信用してくれな」
「それは、わかってるけど…」
「あのさ、正直に言うと「未来の俺」に会うまでは深くまでは考えて無かったけど、俺は主のことを大事に思ってた。でも「未来の俺」に会ってから深く考えるようになった。でも今日の今日までずっと答えが出なかった」
「…」
「変な話だよなぁ。「未来の俺」が発端だったのに「過去の俺」に気付かされるなんて。禁忌事項とわかっていながらもあんなに未来の主のこと必死に聞きだそうとしたり。今振り返ればわかり切った事だよな」
「…」
「俺、主が大事だ。でも、大事と言っても主としての域は超えている」
「…」
「俺は、主の事が好きだ」
「…」
「俺と一緒になってくれるか?」
「だ…だ、ダメに決まってるじゃ無い…!だめに……だめにきまっ……」
「ごめんなぁ。そんな泣かないでくれよ。主はずっと苦しい気持ちでいっぱいだったのに、ずっと気が付かずにいたんだな…」
「本当だよ。なんで気付いたの?どうして気付いちゃったの?気付かなければこんな修羅の道を歩まなくても良かったのに…」
「そんな悲しいこと言うなよ。大丈夫。この戦いが終わってもどうにかして、時の政府に魂売ってでも一緒に居られるようにするから」
「……」
「な?」
「ばっ、馬鹿じゃないの…?そんな事したって本当に一緒に居られる保証なんてどこにも無いのに…」
「そんな将来の不安、俺がどうにかするよ。だから泣くな!主には笑顔が一番似合う。泣き顔なんて見たくない」
「…」
「主、俺を信じろ」
「…うん、わかった。その言葉信じるよ。……本当に、御手杵。あなたは優しいね…」
「そんなことないぞ?」

御手杵はへらっと笑った。
それに釣られて私も笑った。
そのまま彼の懐に飛び込んで彼の体温を感じた。
もう、不安になる必要はない。もう、泣く必要もない。
彼の言葉を全て信じることにした。
きっと、ふたり一緒ならこの修羅の道、乗り越えられるに決まっている。
もう私たちには怖いものなんてないのだから。

July 15, 2019
prev / bookmark / next

[ back to Contents ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -