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  02 「俺」


「いやぁ、まさか主が完食するとは思わなかったよ」
「ふふーん。甘い物は別腹よ。まぁ…でも、しばらくはいいや」
「だよなぁ」

パフェの感想を話しながら意気揚々と店を出た。
まだ少し気持ちが悪いが、致し方ない。
「今度はどこに行くんだ?」「どこに行こうか」と道をぶらぶら歩いていた。
なにか少し違和感を感じる。

「……主」
「うん、わかってる」

誰かが後を付けている。
目配せをして、路地裏に隠れる。後を付けている人は私たちが消えたことに戸惑っているのか足音が止まった。
御手杵が「行くぞ」と目で合図をするとそのままその人物に突っ込んで行く。

「おい!誰だお前!俺たちの後を付けて……って嘘だろ…!?」
「くッ…」
「お、御手杵!?」
「細かいことは後だ!時間遡行軍が近くに来ている!とりあえず撒くぞ!隠れろ!」
「わ、わかったわ」
「おう」

武装した御手杵の言われるがまま、その場で身を隠すと数秒もしないうちに時間遡行軍が現れた。
武装している御手杵は音も鳴く忍び寄り、時間遡行軍との合間を取る。
「突き穿つ!」
攻撃された時間遡行軍は何が起きたのかわからないまま散っていく。

「ふぅ…」
「ちょっと!どういう事?あなた、私の本丸の御手杵だよね?」
「……」
「ああ、どう見てもこの俺は俺だな。おい、なんか言ったらどうだ?」
「……あぁ、そうだ…」
「私の本丸には極も含め御手杵は1人しかいない…。そしてあなたは極の戦装束。ということは、あなたは未来から来たってこと?」
「ッ、そ、それは………」
「図星」
「ね」
「……調子狂うなぁ…」
「理由は言えないと思うけど、何故あなたはここにいるの?」
「それは言えない。任務の一環だからな」
「…そう。歴史上の有名人や事件を狙うでもなく私を狙うという事は、未来の私は時間遡行軍の目の上のたんこぶの存在なのね」
「あぁ、まあそんなところだ」

未来から来た御手杵は私の御手杵と見た目は全く変わらない。
深緑の戦装束に、元の主の兜をあしらった防具、そして彼の身長を優に超える大槍。
だが、私に向ける眼差しは違う。
任務に赴いているから少しだけ鋭く凜々しく見えるが、その瞳の奥には消せない優しさがある。
そして、どこか懐かしんでいるような眼差しにも見えた。

「にしても、現世にいる時に襲撃されるなんて思いもしなかったな。一応こんのすけに連絡は入れるけれど、任務や遠征じゃないから今すぐには武装解除は出来ない。だから、こればっかりは未来から来た御手杵頼りになるわね」
「あぁ。そのために俺が来たからな」
「…」
「本来なら接触は避けるべきだったんだろうけど、安心して。私たち同業者だし。今日の事は見てなかった事にするから」
「それは助か…!?」
「襲撃だ!くそ!かなりの数だな。1、2、3…10体か」
「これくらいなら俺ひとりで十分だ!主達は下がってろ!」
「無茶なこと言うな!俺も戦えるぞ!」

そう言って御手杵は側にあった乱雑に置かれた鉄の棒を握りしめた。
もちろん、この棒には時間遡行軍を怯ますことは出来るだろうが、殺傷能力までは兼ね備えていない。
でも、彼には戦う意志は未来の御手杵よりもあったように見えた。

「来るぞ!」
「言われなくてもわかってる!」

御手杵達は時間遡行軍を次々と倒して行く。
もちろん最終的なとどめを刺すのは未来の御手杵だが、御手杵の攻撃に助けられている部分もあった。
そして、最後の1体になった槍の時間遡行軍が目の前にいる。

「槍のリーチを鉄パイプで怯ませるのは厳しいものがあるが、俺があいつを正面切って怯ませる。お前は裏から回って仕留めろ」
「わかった」
「三名槍が一つ、御手杵!襲撃する!」

御手杵は普段使っている槍よりも短すぎる鉄の棒を脇差しのように使い、時間遡行軍に向かう。
時間遡行軍は、御手杵に向かって攻撃を仕掛ける。
御手杵はそれを上手く鉄の棒で鎬を削りながらかわし、時間遡行軍ののど仏付近にエルボーを喰らわす。
それに時間遡行軍はバランスを崩し、未来の御手杵がとどめを刺した。

「終わった…?」
「多分、な」
「鉄パイプが真っ二つ。なんか脇差の気持ちがわかった気がする。…主、さっさと帰ろう。これ以上現世に長居するのは危ない」
「そうね。せっかくの休みだったけどこればっかりは命を優先しないと」
「そうした方が良い」
「その前に未来の俺と話しがしたい。少しだけ良いか?」
「うん、良いけど…」

御手杵はどうにも未来の御手杵を気に入っていないらしい。
いずれ来る未来の自分のはずなのに。
2人はコソコソと路地の奥に消える。

***

「…なぁ、未来の主はどんな事したんだ。明らかにこれは異常だぞ」
「お前も俺ならわかるだろ。任務を遂行するときの禁忌事項くらい」
「それくらいわかってるさ!でも、審神者がここまで執拗に時間遡行軍に狙われることは聞いた事が無い!」
「本来なら俺はお前たちの裏で立ち回る予定だったんだ。なのに、予定が狂いすぎた」
「だろうな。なぁ、頼むよ。主は未来でも生きてるんだろうな!?」
「……強いて言うなら、主の事はもっと大事にするんだ。俺にしか主は守れない」
「おい、それどういう意味だよ」
「時期にわかるさ」

そう言って未来の俺は少し寂しそうに笑った。
まさか、未来の主には何か取り返しの付かないことが起きているのか?
そう思うと胸が苦しくなってくる。
苦しくなる?それは一体どういう意味だ?
気を取られているうちに未来の俺は急に左耳を押さえ始めた。何か連絡を取っているように見える。

「あぁ、了解した。…どうやら、俺の任務は遂行されたみたいだ」
「帰るのか?」
「そうだ。もう、俺はここに用が無いからな」
「用が無いからなって言われてもな!そんなの無責任じゃないか?」
「無責任?俺は俺の仕事をしただけだ」
「くそ…」
「歴史を変えてくれるような事はするなよ」
「そんなのわかってる!」
「…そうか」

同じ「俺」のはずなのに、未来の俺はどこか一歩先に進んでいるように見えた。
そりゃ、未来から来てるからこれから起きる事は全部把握しているから当たり前なんだけれど。
「未来の俺」は戦うために切り捨てたものが多いんだろうか?
そんな「俺」にはなりたくない。
こう、思うことは歴史を変えてしまうんだろうか…?
2人の「俺」は主の元へ向かった。

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