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  01 偽りの恋人


「御手杵!お願い!」
「えぇ………。良いけど万屋でも売るだろし、万屋のメンテナンス待ってからで良くないか?」
「それは甘いなぁ。限定品だし、メンテナンス待っていたら売り切れちゃうに決まってるじゃん!そもそも万屋では売らない品物だと思うよ」
「だからって貴重な年休を使っていいのか?」
「いいの。その為の年休」
「ん〜。わかった。行くよ」
「やったー!」
「で?ちなみに何が欲しいんだ?」
「パフェ」
「ぱふぇ?」

***

盆と正月くらいしか現世には帰らないのでどこか懐かしく感じた。
滅多に使うことの無い年休を使い、私は現世に帰って来た。
そして目の前のメニュー表には「いかにも」と言った具合のパフェが並んでいる。
どれも美味しそうだが、私は迷い無く指を指した。

「か、かっぷる限定ぱふぇ!!???」
「ちょ、声大きいから!」
「だって聞いてないから、俺!?」
「大丈夫だって、ほとんど全部私が食べるから!ね?」
「ん〜。わかったって」
「じゃあ、決定!」

タッチパネル式の注文票に押す「決定」ボタン。
今か今かと私はパフェを待っていた。
御手杵はどこか不思議そうに私の顔を見ていた。

「ある…君ってこういうの好きだったのか?」
「え?」
「だって、ほんま…家ではあまり甘い物食べているところ見たこと無いし」
「確かにそうかも。ただ、家では食べてないだけで結構好きだよ。若い頃にはホールケーキひとりで食べたくらい」
「それは、凄いな…」
「まぁね」
「お待たせ致しました!こちらがカップル限定パフェになります。10分以内に完食されたカップルには特典がございますので頑張って完食目指してくださいね」

そう言って机の上に置かれたのは、居酒屋で出されるピッチャーを一回り大きくした器に入ったパフェだった。
エベレストの頂のように尖ったソフトクリームに、いちごやオレンジ、パインやりんごの果実のフルコース。そのうえにこれでもかというくらいのチョコレートソースが掛かっている。
底の方にはコーンフレークと白玉がゴロゴロと沈んでいる。
見ただけで胸焼けしそうだ。
だが、こんな所で心は折れてはいけない。
目指すのは完食のみ。

「ん〜!美味しい!これくらいなら全然10分余裕かな!」
「たしかに美味いけど、すでに胸焼けしそうだ」

御手杵の言ったことは数分後には現実となる。
食べても食べても減らないピッチャーパフェ。
美味しいものは美味しい。でも、いくらなんでも量が量だ。
口いっぱいに広がる生クリームは甘ったるく、見たくも無い。
残りは4分。そして残ったパフェは三分の一。
かなり厳しい気がしてきた。
コーンフレークと白玉をぐるぐるとかき混ぜて、とにかく味の変化を付けたかった。

「うぷ…。お、俺、もうキツい…」
「うん、わかった。ありがとう、ここまで頑張ってくれて。残りは私が全部食べる」
「お、おう…」

そういって気持ちが悪い身体に鞭を打って食べ始める。
なぜ、ここまで私がこのパフェに執着するかといえば、完食の特典だ。
ここは特典が2つある。
1つ目は次回お代無料券。そして2つ目はブレスレットだ。
私は2つ目の特典が欲しかった。
嘘か本当かわからないが、このブレスレットをしているカップルは永遠の愛で結ばれるとか結ばれないとか。
本来、審神者と刀剣男士は主従関係のような、戦友のような、職場の同僚だ。
でも、私はいつから彼に同僚としての感情を一線越えていた。だからと言って、彼に想いを伝える気はない。
想いを伝えても先にあるのは永遠の別れだ。
それでも、子どもだましのようなブレスレットを求める私には心のどこかでは一緒に居たいと思っているのかもしれない。

半分意識が飛びながら絶え間なく口にパフェを運び続ける。
もう残りは五口といったところだろうか。だが、この五口が地味に辛い。
目の前の御手杵は今にも吐きそうな顔をしているし、若干虚ろな目でこちらを見ているが「もう少しだ、頑張れ」と応援してくれている。
それを見て、最後の力を振り絞った。

「さいごの一口ッ!」
スプーンの上にこんもりと乗っかったソフトクリームを平らげた。
それと同時に周りからは大きな拍手が沸いた。
店員が見せてきたストップウォッチの数字は<9:56.25>

「やったーーー!」
「凄いぞ!さすが俺のある…彼女だ!」
「おめでとうございます!こちら、完食記念特典の次回お会計無料券とラブラブレスレットです!」

渡されたのは、「無料券」とでかでかと書かれた紙と赤い大きな石が1つと両隣に小ぶりの緑色の石がついた黒紐と白紐の色違いのブレスレットだった。
御手杵に黒紐のブレスレットを渡すと受け取るや否やすぐに左手にしてくれたことが嬉しかった。
それに釣られて私もブレスレットをして、お互いおかしくなって笑い合った。
一瞬だけ恋人になった気分を味わえた。
ほんのささいな出来事だが、幸せだった。

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