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  02 Ich vergebe dir


Ich vergebe dir

エレンを回収したのち、すぐさま本部に戻った。
今回の壁外調査で負傷者を含め多くの兵団の犠牲を払った。
女型の巨人という予想外の襲撃がその一因でもある。
むしろ怪我もなく無事な方が少ない。
そして、その人は後者ではない。

「ミカサ、どうかしたの?」
「…アルミン…。いや、なんでもない」

エレンが眠る部屋でアルミンは心配そうに尋ねる。
マフラーで口元を覆うと思ったが、マフラーを部屋に置いてきたことを忘れていた。

「そうなの?でも、ミカサ、疲れているんじゃない?」
「疲れていない…」
「…もう休みなよ。遅いしさ。エレンなら僕が見てるから」
「大丈夫、だから」

アルミンの目を見れなかった。
思わず逸らした。
大丈夫。
でも、何が大丈夫なのかわからない。
部屋が少し寒く感じた。

「…そういえば、リヴァイ兵長が怪我したって噂らしいね…」
「…!?」

頬に汗が伝う。
寒いはずなのに。
それと同時に強く拳を握った。

「それは…本当、なの…?」
「うん、多分本当じゃないかな。さっき医務室に入って行ったのを見かけたから」
「…そうなの…」
「でも、もしかしたら、誰かのお見舞いかもしれないし…わからないよ」
「…そう、だね…」

あの人に今、お見舞いに行くための人がいるのだろうか。
リヴァイ班の班員はみんな…。
エレンを取り戻した後、二人で森を抜ける形になった。
あの人は表情一つ変えず真っ直ぐ飛んでいた。
でも目だけ、目だけは真っ直ぐ前を見ていなかった。
前よりもずっと遠くのもの。
遥か彼方を見ていたように見えた。
今思い返せば痛みに耐えながら飛んでいたようにも見えた。

「アルミン…私、少し外す…。大丈夫、すぐ…帰ってくるから」
「…わかったよ。いってらっしゃい」

アルミンは手を振った。
私は少しだけ笑って部屋から出て行った。

***

医務室のドアの前に立つ。
微かに消毒液のにおいが漂う。
この中に、あの人…リヴァイ、兵長はいるのだろうか。
握った右手でドアをノックしようとした時だった。

「おい。ガキはもう寝ろ」
「!?」

突然背後から声がして驚く。
思わず確認する。
そこには彼が立っていた。
制服は着ていなく、少し大きめのシャツを着ていた。
思わず足元の方へ目を向ける。が、隠れて怪我を確認することは出来なかった。

「エレンは医務室にいないぞ」
「…わ、わかっています…」
「そうか」

目が合ったが、私は逸らした。
それを確認したように、彼はそのまま部屋に戻る素振りを見せた。
違う。
私は目を逸らすために来たんじゃ、ない。

「ま、待って下さい」
「あ?」
「…い、や…その…」
「なんだ」
「…」

言葉が出ない。
喉に言葉がつっかかる。
簡単な言葉なはずなのに。
なのに、言葉が思うように出てこない。

「……チッ…おい、ちょっと付き合え」
「えっ…」
「そんな変な顔すんじゃねぇよ。腹減っただけだ。食堂まで付き合え」
「…は、はい…」

そうして小柄な男の後を付けるように食堂に向かった。

***

「まぁ座れ」

コップを机に置き、彼は乱暴に座った。
食堂は誰もおらず静まり返っていた。
そもそも食事の時間ではない。
椅子に座る兵長の向かいに座る。

「…食事、良いんですか…」
「あぁ。ここに来た瞬間食欲が失せた」
「そうですか…」

目の前にあるコップに手を伸ばす。
水を一口飲む。
どうしたら良いのだろうか。
分からなくて思わず、コップを握りしめる。

「あの」
「なんだ」
「…その…」
「あの時の威勢はどこへ行ったんだ…?」
「そっ、それは…」

コップを持った彼はこちらを睨んでいた。
そしてコップを置いてこちらをまじまじと見る。
私も負けじと握っていたコップを手放し、睨む。
もう目は逸らさない。

「…精一杯でした…エレンのことで…」
「…」
「私は、エレンのことしか見えていません、でした」
「…」
「作戦より私情を優先したんです…」
「…それを、わざわざ俺に報告か?だったら、もっと自分を抑制することをーーー」
「違う!……違います…」

机を叩きそうな勢いで私は反発した。
それと同時に言葉が出てこないもどかしさがあった。
ぐっと拳を握り、ゆっくり開いた。
一瞬だけ目を伏せ、そして真っ直ぐ兵長の目を見た。

「ごめんなさい」
「…」
「その…私のせいで…あなたに怪我をさせました」
「…」
「ので、私はあなたの分も、戦う」
「…くだらねぇこと考えてんじゃねぇよ」

やっとのことで伝えたものが、あっさり否定されてしまう。
予想外だった。
思わず「何を言っているの」と口答えしていた。
彼は何も言わずに続けた。

「…大体、俺が怪我をしたのは勝手だ。それがたまたま、お前と一緒に女型と交戦したのと被っただけだ」
「違います、だって、私はあの時…」
「あの時、俺の命令を無視して攻撃したから怪我した、とでも?」
「…はい…」
「そうか」
「…」
「だがお前は、俺を怪我させるために女型に攻撃を仕掛けたわけではないだろう」
「…そう、ですが…。…ですが…私はエレンのことしか…」
「もうそのことは気にするな。すべて終わったことだ。今はこれからのことを考えろ」

薄暗い食堂の中でその目は、光っていた。
諭すような口調は、あの日エレンをいじめていた人とは思えなかった。
巨大樹の森で厳しい言葉を言われた時と同じだった。
そして、コップの水を飲み終え、彼は席を立つ。
私も立った。

「別にお前は座っていても良い。少し休め。…どうせ、エレンが目を覚ますまで起きているつもりだろう?」
「そ、それは…」
「…そういえば」
「…?」
「お前の名前を聞いていなかったな」
「あっ…アッカーマンです。ミカサ・アッカーマンです」
「…そうか、覚えておこう」

そう言って彼は食堂から出て行った。
彼は不思議な人だ。
何が不思議かと聞かれると上手く説明できない。
だけど、この人がどうして多くの部下に慕われているのかわかった気がした。
水を飲み終え、二人分コップを片付けエレンのいる部屋に戻った。

***

「…おかえりなさい。ずいぶんと遅かったね」
「うん…」

アルミンは本を読んでいた。
どんな本を読んでいるのか気になったけれど、今はアルミンに休んで欲しかった。

「アルミン、休んで」
「えっ?僕はまだ起きていられるよ」
「さっき、私は少し仮眠をしてきた…だから、大丈夫」
「…わかったよ。僕も少し仮眠したら戻るから…」

アルミンは部屋から出て行った。
仮眠したのは嘘だ。
でも、今なら仮眠を取らなくても大丈夫。
少し気持ちが楽になったから。
エレンの寝顔を見つめながら考えていた。

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