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  05 黎明


執務室から戻って来たのは23時を過ぎてからやった。
あの後、主はんは抑え込んでいた想いを爆発させるように自分に想いを伝えて来はった。
実は一目惚れだった事、仕事と恋愛は両立出来ないと思い諦めかけていた事、自分に気持ちを伝える気は無かった事。
想いを伝えて本人はスッキリしたのか、自分が報告書に四苦八苦している最中にいつの間にか書き上げていた。主はんは余程疲れたのか、そのまま眠ってしまっていたけど。
あの惨状を見て、精神的に不安定になることを恐れとったけど、あの様子を見れば少なからず大丈夫やろう。
でも、まだ「フラッシュバック」ゆう現象に苛まれる可能性もあるとは限らへん。
その時は、あの惨憺たる現場に居合わせた者として最低限支えるつもりや。

「あ、国行。おかえり」
「おかえり」
「はいはい、戻ったで。まだ起きとったん?」
「ん?なんか国行、主さんの匂いする気がする」
「主さんに変なことしてないだろーな」
「んなわけ無いやろ。今まで昨日の報告書、書いとっただけや」
「ふーん…」
「へぇ…」
「そんなニヤニヤせんでもええやろ」
「でも、国行も少しニヤけてるよ?俺の気のせい?」
「まさか、オレ達が作ったお守りの効果あったのか!?」
「……はぁ。蛍、国俊。その節はおおきに、おおきにな」
「えっ…!?嘘っ!ほ、ほんと!?」
「本当かよ!こりゃ、祭りじゃねーか!やったな蛍!」
「うん!今から明日の食事当番に赤飯頼んで来たほうが良いかな?」
「気持ちは有り難く頂くけど、それはせんでええ。もう夜中やし、静かにせんと怒られるで」

2人はえろう楽しそうに、まるで自分の事のようにはしゃいでいる。
思えば、2人が気を利かせていなければ、こんな結果になっていなかったのかもしれへん。
隠し通している思っていた感情は、いとも容易くに2人には見破られていた。
いつから主はんを好いていたかはわからへん。
好きやったけど、告白する気はあらへんかった。
そんでも、自分が抱くこの情に嘘偽りはあらへん。
有頂天な2人の様子を見ていたら心の奥が温かくなる。
けど、ふと我に返ったように蛍は話を切り出した。

「おめでとう国行!…ところで、報告書は書き終わったの?」
「いいや。まだ残ってるで」
「はぁ!?これ確か提出明日の朝って言ってなかったか?間に合うのか?」
「どうやろうなぁ…」
「国行が見て来たこと書けば良いんじゃないの?」
「見て来たこと、なぁ…」

見て来たこと。
蛍に言われて情報を整理する。
主はんがホールのやたら大きいガラス細工の照明に見惚れとって、それから会場に入ったらお偉いおっさんに絡まれて、そのおっさんの講話が始まった途端、急に主はんが会場飛び出した。それと同時に時間遡行軍が襲撃しよった。
それから、命辛々埃臭い物置部屋に逃げた。敵が時間遡行軍だとわかると主はんの瞳は、獲物を狙う獣のように気合い入っとったけど、こんのすけはんに連絡しようとする手は酷く震えていた。
最期になってしまうかもしれへんからって自分なんかに告白して。
決死の覚悟で3階から飛び降りて、命がけで自分の帯刀制限を解いてくれはった。
あの時の主はんの行動は、助かったから良かったけど着地失敗していれば大惨事やった。あんな無茶するくらいなら、抱き締めてでも引き止めとけば良かったと少し反省しとる。
会場に再び戻ってから目の当たりにした、惨劇に主はんは苦しい顔しはったけど、道中出会った女の審神者が息を引き取った時、顔つきが変わった。
主はんの必死さに、流石に応えなアカンと思った。
らしくないけど、あの場では「刺し違えても殺す」つもりで戦っていた。
自分が見て来たことと言ったらそれくらい。
思い返せば、ほとんど主はんしか見とらんわ。

「なんもあらへんなぁ」
「えっ!?あの場を2人で抑えて来たんだろ?書くこと沢山あるんじゃないのかよ」
「もー。主さんに怒られても知らないからねー」
「はぁ…。蛍、国行なんか放っておいてもう寝ようぜ。国行、おやすみー」
「そうだね。おやすみ、国行」
「おやすみ。ぐっすり寝ぇや」

そのまま2人は敷いていた布団に潜りこむ。
まだ報告書は書き終わらへん。
この時間配分だと書き上げ終わるのはお天道様を拝む頃やろうか。
けど、主はんは明日の朝一番に報告書を提出しに行くはずや。
ほんの少し速度上げますか。
とうの昔に眠ってしまった蛍と国俊の頭を軽く撫でる。
部屋の電気を消し、卓上にある小さな照明の紐を引っ張り、身体中の筋肉を解しように伸び、欠伸をして机に向かう。
ふと青い愛染明王ついたお守りをジャージのズボンから取り出し一度触れる。
一瞬脳裏に彼女の昨日今日見た表情が浮かんだ。
色々な表情が浮かぶが、最後に浮かんだのは泣き顔だった。

「もう泣かれるのは堪忍やなぁ」

小さく息を吐き、再び筆を執り始めた。
長い夜は始まったばかりだが、早く終わらせてしまわんと。
暁の空が迫って来るその前に。

February 12, 2017
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