Novel | ナノ


  01 Der Anfang vom Ende


仲間の死を見て、何も思わない訳ではない。
多くの死を見て来て、血も涙も失ったわけではない。
見続けて死に慣れたわけでもない。
ただ、どんなに信頼している仲間を信じても。
自分自身の腕を信じても。
結果は誰にもわからなかった。
後悔しない選択を選ぼうとした。
今回した選択は、後悔しないものになるのだろうか。
だが、そんなの結果が出なければわからない。

Der Anfang vom Ende

初めてその人と会ったのはトロスト区奪還作戦の時だった。
間一髪で巨人に襲われるところだった。
それを助けてくれた。
いや、正確に言えば私が一瞬遅れを取っただけ…。
初対面での第一印象は可もなく不可もなく。と言ったところ。
だが。
あの日で印象は第一印象よりも酷く最低なものになる。

掃討作戦から数日後、エレンが兵法裁判にかけられると聞いていてもたっても居られなかった。
もし、エレンに万が一の判決が出るのなら、私は人類を敵に回しても良いと思った。
そのくらい気が気でなかった。

そして兵法作戦当日。
私は一人の男を「敵」として認定した。

「うっ…がはっ…」

エレンに容赦のない蹴り。その小さい男はあんなに痛がっているエレンに対して蹴りをやめようとしない。
怒りで目の前にある柵を越えようと、一歩踏み出すがアルミンに止められた。
「アルミン、なにをするの!?」そう思った。が、ぐっと堪えた。
ただ私は、あのチビにいじめられているエレンを見ることしか出来なかった。
奴のエレンへ対する攻撃が止んでも、その男を私は睨み続けた。
そして、目が合った。
目が合ったと思えばしばらく見つめられ、奴が話しかけられるまでずっと睨み合っていた。
たとえどんな理由でも、許さない。
絶対に。

***

「…あのチビに…然るべき報いを…」

調査兵団へ入団後。
私は毎日のようにそれを合言葉のように、訓練に励んだ。
「人類最強」と言ったって、私が一番強い。
私が一番強くなくてはエレンを守れない。
たとえそれが本当の話だったとしても、私のほうが強い。
そんなハッタリのような言葉を背負った男を超えるために私は毎日の訓練に励んだ。

「ミカサ、おはよう。今日も早いね。走ってきたの?」
「…アルミン、おはよう。うん、ちょっと走ってきた」
「あんまり無理したら駄目だよ。明日は壁外調査なんだし…」
「大丈夫。無理はしていないから。…あと立体機動装置の点検もする…」

アルミンは「そっか」と微笑んで食堂へ向かった。
しばらく歩いてから立ち止まって「点検は後で一緒やろう。その前に朝ごはん、一緒に食べよう」と笑顔で言われた。
返事はもちろん「うん」。
だけど、その席にエレンはいない。

***

壁外調査当日。
作戦は難航していた。
予想外の敵襲。
女型の巨人…。

「森の奥が、騒がしいですね」
「…うん」

確かに森の奥は騒がしかった。
何をしているかわからない。
ただ、女型の巨人は森を進んで行ったそうだ。
エレンは無事だろうか。
だが撤退命令が下された。

「うぉおぉぉぉおぉおぉおおおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉおぉお!!!」

地響きのような唸り声だった。
だけど直感した。

「エレン…?」

私は声のする方に目を向ける。
行かなければ…。

「ミカサ!?どこ行くんですか!?」

サシャの声が遠く聞こえた。
私は聞こえる声を無視して、地鳴りのような声のほうへ飛んでいく。

***

その女は私の目の前でエレンを口に入れ連れ去った。
返せ、エレンを返せ!
女に攻撃を仕掛けるが、女もエレンを譲ろうとしない。
どんな手を使ってでも、エレンを取り戻す。
その汚いとこから、必ず取り戻す!
絶対、絶対!

「待てっ!」

その瞬間、身体に衝撃が走った。
鈍い痛み。
まさか攻撃を食らったの?
そんなはずない。
女型の巨人は目の前を走っていたから。

「なにっ!?」

私は抱えられていた。
エレンをいじめたあのチビに。

「…ゲホッ」

さっきの衝撃で多少むせる。
相当なスピードで抱えられたようだった。
抱えた腕が離れる。
一瞬目が合ったが、逸らした。

「一旦離れろ。奴と距離を取れ」

冷たい声が森に響く。
離れている場合ではない。
こんなにエレンを取り戻す絶好のチャンスはないはずなのに。
そして女型の方に目線を向ける。

「…奴も疲弊している。チャンスは一度しかないだろう」
「…」
「女型に食われたように見えたが、エレンは死んだのか?」

そんなことない絶対。

「生きてます」
「エレンを食うことが目的だったらどうする」
「生きてます…!」
「…だと良いな」

冷たいその声に睨みつける。
奴もそれに気が付いていない。
ただ、前を向いて飛び続ける。

「そもそも…あなたがエレンを守っていれば…こんなことには…!」
「…!?」

何かを思い出したように彼は、わざわざ顔を確認するためなのかこちらに顔を向けて飛ぶ。
口は堅く結ばれている。
表情は陰で見えにくい。

「…そうか…お前は、あの時の…エレンの馴染み…なのか…」
「…?」

一瞬だが木漏れ日で表情が見えた。
その表情は「人類最強」のする表情ではなかった。
よくわからないが、なにか深く考えている。
それとも驚いているのか。
どちらとも取れる表情だった。

「……目的を絞る。女型を仕留めることは諦める」
「奴は仲間を殺しすぎました。なので、ここで仕留めなければ…」
「…エレンが生きていることに望みをかけ、取り戻すことに専念する。森を抜ける前にエレンを救う」
「…」

次の瞬間にはその表情は消えていた。
女型の背中を追うその眼差しは鋭かった。

「…これから俺の指示に従え、いいな」
「…はい…」

あの人が視線をこちらに向けた。
私も向けた。が、すぐ女型に向けた。
一刻も早く救いたかった。

「俺が奴を削ぐ。お前は女型の注意を引け!」

***

女型の足元スレスレを飛行する。
生い茂った木々が立体機動には丁度良い。
ふと女型の頭の上にいる存在に目が行く。
右手に持った剣を逆手に持っていた。
そろそろ攻撃をしかけるのだろうか。
私は女型の注意を引くように蛇行して飛ぶ。

「!?」

女型は私に攻撃するのでなく、あの人目がけ攻撃をしかけた。
だが素早い女型の攻撃に屈することなく。
むしろ狙ったかのように、斬撃をする。
初めて見た動きだった。
容赦ない攻撃は止むことを知らない。
速い。
速すぎて女型が反撃する暇がない。
とても、目が追いつかなかった。
立体機動でこんな動きが出来るのかと思うくらい速い。
斬撃は何度も何度も繰り返される。

「…うなじが…」

女型の腕はするりと垂れた。
うなじを守るその手が使えない今。
今がチャンスだ。
…今なら…!

アンカーを女型の肩に刺す。
もう少しでエレンを救える!
待っていてエレン!
今、助けるから…!

「うぉおぉおおおおおおぉおおぉっ!」

雄叫びを上げながら女型に斬りかかる。
剣を強く握る。
一撃でケリをつける。

「よせ!」

遠くの方で声が聞こえた。
攻撃を止めるよう指示する声だった。
ここしかチャンスはないのに。
今攻撃を止めるわけにはーーー

目を疑った。
女型の拳が近づいてきた。
そんな。
腕の筋肉は確実に切り落とされたはずなのに。
茫然とした。
こんなところで、私はーーー。

視界が歪む。
再び身体に衝撃が走る。
何が、起きているのか一瞬把握できなかった。
私は殺されたのだろうか。
体勢が崩れ、空を仰ぐ形になった。

「…あ…」

目の前にいないはずの人がいた。
その人は女型の拳を食らったようにも見えた。
…いや、食らっていた…。
すぐさまお互い体制を直し、私は近くの木へ。あの人は女型に斬り込む。
女型は顎が外れたように口を大きく開く。
大きく開いた口からエレンを救出する。

「エレン…!」
「オイ!ずらかるぞ!!」

女型から多少離れた木に止まる。
私は少し息が上がっていた。

「多少汚ねぇが…生きてはいるはずだ…」
「…エレン…」
「ヤツにもう関わるな。…撤退するぞ」
「…はい」

女型の唾液で汚いのは確かだったが、エレンは生きてる。
安心したが不安もあった。

「作戦の本質を見失うな。見失った瞬間、それが命取りだ…。それとも、自分の欲求を満たすことの方が大事なのか?」

言っていることは厳しいものだった。
けれど声のトーンは厳しいものではなかった。

「お前の大切な友人なんだろ?」
「…違う…私は…」

私はその一言に違和感があった。
エレンが戻ってきて嬉しい。
けれど何か違う。
素直に喜んで良いものじゃなかった。

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