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  御手杵×女審神者


私は生まれつき目が見えない。
だが、耳は人一倍良かった。
だから「聞こえてはいけないもの」が良く聞こえていた。
きっと今もそうなのだろう。

「御手杵。落ち着いてください。私に今、何が起きているのか説明して欲しいです」
「ん、あ〜。なんていうか、この部屋から出られないらしい」
「そんな…。ん、今何か物音が右の方でしました。大丈夫ですか?それより御手杵、槍は持って居るのですか?」
「槍は持ってない。山姥切と一緒に畑当番してて気が付いたらここに居たからな。それにしても、あんた本当に耳良いな」
「なにかあったのですか?」
「壁に文字が浮かんだ。えっと…≪この部屋は24時間過ごさないと出られません≫だってさ」
「それは困りました。こんのすけを呼ぶためにもその術が今の私にはありません。…時計の音ですか?なにかカチカチとしますね…」
「あぁ、デジタル時計っていうのか?それが壁に浮かび上がって数字が減ってるな」
「…そうですか。そろそろ10時なるので明日の10時頃まではこの部屋に監禁状態なんですね…」

どうやら成す術はなさそう。
致し方ない、ここで24時間過ごすしかないのか。
それにしてもこの部屋がどうなっているのか全く状況が掴めなかったので、壁や床に耳を当てて音を聞いた。
だが、床や左右の壁からは生活音が聞こえなく無音だった。
唯一見つけた部屋はお手洗いのみ。
では私達はどこに閉じ込められてしまったのだろう。
それでも、音がするところがたった1つあった。

「お〜。ちゃんと冷蔵庫の中に食べ物や水が入ってるな」
「御手杵、罠かもしれません。無暗に口に入れないで下さいね」
「…悪い。もう冷蔵庫に入っていた水飲んじまった」
「全く…。身体の方は大丈夫ですか?」
「あぁ。今のところは何ともないな」
「中には何が入っていますか?」
「えーっと…。水が入った水筒が六本、菓子パンが四つにレトルトのカレーと白米が一つづつだな」
「大体三食分ってところですね。本当に私達は閉じ込められてしまったのですね…。さて御手杵、どう致しますか?」
「どうって、なぁ…。部屋の造りを見ても出れそうな場所は一切無いし、だからと言って俺達を殺そうとか気は全くしない。まぁ、だから大丈夫じゃないか?」
「御手杵を信用します」
「あぁ」

へへっと御手杵の笑い声が続いた。
御手杵の言う通りこの部屋からは殺気のようなものは全く感じられなかった。
だからと言ってこの部屋で何が起こるかなんてわからない。
いくら殺気が感じられなくとも、罠である可能性はある。
音と匂いにしか頼る事が出来ない私はとても不安だった。

「御手杵。この部屋には冷蔵庫以外に何かありますか?でも機械音は聞こえないので、無いですか?」
「ん〜。…まぁ、あるとしたらぺらっぺらの毛布だな」
「…そうですか」
「流石にこの毛布で寝ろってのは鬼畜だなぁ…」
「まぁ、一夜くらいですしそんな気に…」
「?」
「いえ、なんでもないです。そろそろお腹が減りました。早いですが昼食にしましょうか」

理解不能の状況に立たされて思考停止していたが、余裕が出てきてよくよく考えれば御手杵と二人っきりで24時間過ごすことってハードルが高い。
2人で菓子パンを食べながら昼を過ごした。
御手杵に探してもらったがこの部屋には本当に何もなく、暇つぶしをするものが全く無かった。
テレビも無ければ、ラジオも無い。
本当に何もなかった。

「…暇だぁ」
「はい…。ただただ暇です。人間、娯楽が無ければ心が死んでいく気がします」
「うーん。仕方ない、鍛錬でもするかな」
「私で良ければ何かお手伝いしますよ」
「じゃあ、俺、腹筋するから脚押さえててくれないか?」
「はい」

御手杵の筋トレにそのまま付き合った。
腹筋200回、背筋200回、腕立て伏せ300回。
ひたすら回数をカウントした。
彼の表情はどうなっているのかわからないけれど、時々聞こえる呻き声からして厳しい表情をしているのだろう。
タオルなんて持ってきていないので、ハンカチを貸して彼は汗を拭っていた。
全てのメニューを熟して、そのまま夕食に入った。
部屋は幸せの匂いで充満している。
何処にでも売っているレトルトカレーは、電子レンジが無い為温かいものではなかったけど美味しく頂けた。

「よく食べた。何もこれと言ってすること無いし、俺はもう寝るよ」
「…はい。そうですね」

その場に雑魚寝するように転がった。
微睡に任せようとしたが、背中から御手杵の熱気が感じてそれどころではない。
寝息の音の方角からすると、どうやら背を反対にしながら寝ているようだ。

「……なぁ、起きてっか?」
「…は、はい」
「そうかー。……そういえば、ここに来た時から聞きたかったんだけど、主の目はいつ悪くなったんだ?」
「その、私は生まれた時からです。だから、色がどんなものかわからないし、文字も見た事がないです」
「…そうか。本丸の生活とか大変じゃないか?」
「いいえ。みんな優しいので大変とは感じた事はないです」
「そっか。それは良かった」
「…でも、時々色が見えるんです。でもきっとこれは、あなた達が見えている色じゃないことはわかっています」
「じゃあ、俺はどんな色してるんだ?」
「あなたは温かい色です」
「ん、あぁ、例えば瞼閉じたときに太陽見たときの血の色か?」
「血の色…というか、もっとこう…温かいものなんです。具体的にと言われると上手く伝えれないのですが…。あなたは誰よりも武器らしい。でも、あなたは誰よりも人間臭い。なんていうか、ほかほかしてて、包み込まれるような…。そんな色なんです」
「俺は人間じゃなく槍だって」
「わかっていますよ。例えの話です」
「…まぁ、でも、人間臭いって話は置いておいて、本丸の奴らと話すのは好きだよ。脇差連中とか同田貫とか明石とかな。あと、主、あんたも」
「そうですか…って、え?」
「ん?」
「あ、い、いえ…。もう今日は色々疲れました。寝ます。おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」

心臓がバクバクしてて全く寝れない。
まるで私自身が心臓になったみたいだ。
それを御手杵は知ってか知らずか、何事も無かったかのように寝ている。
結局一睡も出来なかった。

「ん〜。あぁ〜。主、起きてっか〜?」
「……はい」
「おいおい大丈夫か?」
「だ、大丈夫です…。あと何時間ですか?」
「あと3時間だな」
「…そうですか」

寝不足なまま最後の朝食を食べる。
食べ終えてからは、本丸に帰った後の話をしていた。
まず、こんのすけにあったことを全て話す。
それから1日不在にしたことをみんなに謝る。
昨日出陣出来なかった分、今日は沢山出陣する。
色々と話しているうちに残り3分になっていた。
始めは暇だったけど、案外どうにかなるもんだ。

「…あと1分切った」
「これで帰れますね」
「あぁ。でも…」
「?」
「案外、あんたと二人っきりで過ごすのも悪くないなぁって。また今度、こんな狭い部屋じゃないところ…。そうだな、本丸の縁側で月でも眺めながら酒でも呑みたいな」
「なっ?!な、なに言って―――」

御手杵の突然の言葉に動揺した。
その直後に私の意識は途絶えた。

遠くで必死に訴える声が聞こえる。
「主!起きろ!」
けたたましい御手杵の声が耳を劈く。
あぁ、今日の近侍は御手杵だったか。起きないと。
こんなに必死に訴えてくる御手杵は、聞いたことが無い。
手で必死に声のする方を探す。それに御手杵も気が付いたのか応えるように手を握り返す。
とても温かい。

「……いま…今、起きました」
「あぁ、良かった…」
「…どうか、したのですか?」
「休憩しようと思って飲み物取りに戻ったら、あんたが台所で倒れててさ…。咄嗟にあんたの部屋に運んだけど…。でも、大丈夫そうだな…」
「そう、ですか…。それはご迷惑をお掛けしました…」
「とりあえず、山姥切に伝えてくる。まだ安静にしてろよー」
「はい」

御手杵はそのまま部屋から去って行った。歩いて行った方向からすると畑の方だろう。
ここ最近、暑さが厳しかったから熱中症で倒れてしまったのかもしれない。
頭も痛いし、身体全身が重く、何もしたくなかった。

「……彼は、覚えてないみたいですね…」

独り天井に向けて呟いた。
きっとあれは夢だったのだろう。
そのまま微睡に身体を預けた。

August 25, 2016
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