Novel | ナノ


  大倶利伽羅×女審神者


まるで長い夢を見ていた気分になった。
気が付けばどういう訳か真っ白で扉も何もない部屋に居た。
確か、この部屋に来る前は一人で執務室で書類作成をしていた。
今部屋に一緒にいるのは大倶利伽羅だ。
大倶利伽羅に話を聞いても、彼にも今の状況はわからないそうだ。
若干パニックになりつつも脱出をする為に部屋を見渡すが、本当に何もない。
すると真っ白な壁に真っ青な文字が浮かぶ。
≪二人三脚で1q走破しないと出られません≫
浮かんだ文字に理解不能だったが、私の視界を遮るように天井から降って来た真っ白な紐が全てを物語っていた。
すると部屋は雷鳴のように大きな音を立て伸びてゆく。その先には扉があるように見える。
彼と一緒に走って扉まで向かったが、ドアノブはコンクリートのように硬くビクともしない。
スタート地点まで一緒に情報を整理しつつ帰った。

「という訳で、1q二人三脚しないと出られないみたいだから諦めよう」
「…どうして俺がこんなことを……」
「グダグダ言っても仕方ない。頑張ろっか」
「…」
「まぁ、こう見えても私、学生時代の体育の成績は優秀な体育会系だったんだから!お任せなさい」
「…そうか」

大倶利伽羅は平常運転だが、私は内心焦っていた。
体育の成績は優秀だったのは事実だ。
だが、体育の授業に二人三脚という科目はない。
それも焦る要素の一つではあったが、一番不安だったのが二人三脚は協力し合わないと進まない競技だ。
我が道を行く彼と協力出来るかが一番不安だった。
そんな思いを抱きながら天井から降って来た真っ白な紐を大倶利伽羅は右脚、私は左脚に結ぶ。
ギュッと絞めた紐から視線をずらし、真っ白な世界の遥か彼方にある扉を睨む。
歩けば1qなんて大した距離じゃないが、二人三脚ではあまりにも遠い。
だけどこれをクリアしないと外に出る事は叶わない。
左手で大倶利伽羅の上着の裾を掴むように握る。

「よし!行こうか。私がせーのって言うからそれに合わせて、結んだ方からスタートね。そのあとは、いちにって言っていくから今は、前に進むことを考えよう」
「…あぁ」
「せーの!いちにっ!いちにっ!…」

私の掛け声に合わせ一歩一歩づつ進んでいく。
おぼつかない足取りではあるが確実に進んでいる。
私は思った以上に連携が取れていて簡単に進むものだからどこか安心していたんだろう。
半分ほどまで進んだ時だった。

「いっちにっ!いっ―――」

頭で考えたところで時すでに遅し。
気が付けば身体は真っ白な地面に落ちてゆく。
2人分の身体の重みが地面を揺らした。
這い蹲った鈍る身体をゆっくりと起こし、地べたに座っている大倶利伽羅に声をかけた。

「お、大倶利伽羅大丈夫?ごめんなさい、ちょっと気を抜いてしまって…」
「慣れ合う気はない」
「大丈夫そうで良かったわ。とりあえず立とうか…。せーので立てそう?」
「…あぁ」
「せーのっ!」

グッと力を込めて立ち上がるが、再びよろけそうになり身体の重心を崩した。
咄嗟に腕でもがいて態勢を立て直そうとするが、思うように身体が言うことを聞かない。
その時、服を引っ張るように背中を支えられ難を逃れた。
こんなことを出来るのはひとりしか居ない。

「あ、あれ…」
「…あんた、学生時代の体育の成績が優秀だったのは本当の話なのか?」
「ほ、本当だってば!」
「ふん…」
「とにかく行きましょう」
「…」
「本当にありがとうね。大倶利伽羅」
「…」

真っ白な部屋で再び私の声だけが響く。
先程よりも強く固く大倶利伽羅の上着を握った。
心なしかさっきよりも距離が近くなった気がする。
その瞬間ふわっと柔らかく甘いような香りに包まれた。
なんて安心する香りなんだろう。
ゆっくり心を解すように深呼吸し、目の前を見据える。
残り数十歩。一緒に歩む数十歩。
ゴールは目の前だ。
互いに手を伸ばしドアノブを回した。
ガチャっと鈍い音がした。

「あ、開いた…!」
「…」

扉を開けばそこは執務室だった。
思わず後ろを振り返ったが何事も無かったように扉は消滅していた。
「これは夢だったんだろうか…」
そう考えてしまうくらい数十分間の出来事は泡沫のようだった。
だが、彼と私を繋げている真っ白い紐は夢ではない。
解こうと紐に手を伸ばすが、大倶利伽羅に制止させられた。
何事かと思い咄嗟に彼の方へ視線を向けたが、彼の瞳は今までにない程炯々と輝いていた。
彼の瞳に思わず息を呑んだ。

「…」

彼は刀に手を掛けゆっくりと音もなく刀を抜く。
すると紐は彼の所作に驚いたのか、白蛇に姿を変えた。
白蛇はするすると脚から離れ消えるようにその場から逃げて行った。
一体何が起きているか、私には理解出来なかった。
もしかするとあの部屋での出来事は一時的な神隠しのような事だったのだろうか。
頭の中で一人もやもやと考えていると、大倶利伽羅は何事もなかったように納刀し去って行く。
思わず彼の腕を掴んでいた。

「…なんだ?」
「あ、あの……今のっていったい何なの…?」
「さぁな」
「…そっか」
「…」

炯々と輝いていた瞳が嘘のように、いつもの穏やかな瞳に戻っていた。
それに安心しゆっくりと名残惜しいように手を離し、彼は静かに息を吐く。
彼は柔らかく甘いような香りを残し部屋を後にした。
何か忘れている。お礼だ。咄嗟に思い出した。
「ありがとう、大倶利伽羅」
物言わぬ背中にお礼を言って、この一件は終わった。

この日以来、私は彼に対して「同志」以外の感情が芽生え始めるのはまた別の話だ。

August 18, 2016
prev / bookmark / next

[ back to Contents ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -