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  鶯丸×女審神者


ここはどこだろう。
鶯丸に起こされて気が付けば知らない場所にいた。
たしか縁側で二人で日向ぼっこをしていて、眠くなったのは覚えている。
これは夢だろうと思ったが、どうやら夢じゃない。

「…ねぇ、鶯丸。ここはどこだと思う?」
「さぁどこだろうか。本丸ではないのは確かだな」
「そうねぇ。どうやったら出れるかな。見たところ窓も扉もない密室だし」
「まぁ、茶も用意してあるんだから一度休もうじゃないか」
「ほんと、気楽ねぇ。…でもせっかくだから……?」
「どうかしたか?」

鶯丸の背中越しになにやら文字が見えた気がするが、何かの見間違いだろう。
鶯丸が差し出した茶を飲んでほっと一息するが、私がスルーしたことを文字が気付いたのか初見の時よりも文字が大きくなっている。
さすがにここまでスルーしているのは可哀想か。

「…ねぇ、鶯丸。後ろを向いて見てくれない?」
「ん?……随分と大きな字だな」
「でしょう?自己主張激しいよね」
「何々、この部屋はどちらが傷つかなければ出られません、か」

壁一面に大きく書かれた文字はこうだ。
≪どちらかが傷つかなければ出られません≫
誰かのいたずらの可能性はあるが、この部屋は完全密室なので恐らくこの課題をクリアしないと出られないのだろう。
ただ、課題の内容があまりにも意地悪だ。

「…傷つかなければ、か…」
「きっと誰かのいたずらだろう。まぁ、ゆっくり茶を飲もうじゃないか。この部屋に長居出来るということは今日の畑仕事をしなくて済むということだ」
「何言ってるの。次の日も畑仕事させるに決まってるじゃない」
「細かいことは気にするな。茶でも飲もう」
「…まぁ、そうね」

鶯丸に乗らされるがまま茶を飲もうとした時だった。
空を切るように彼と私の間に、短刀がどこからともなく床に突き刺さる。
見た目は何の変哲もない短刀ではあったが、禍々しい嫌な雰囲気を醸し出していた。
これでやれということか。

「…参ったな。どうやら俺達を逃がすつもりはないらしいな」
「そうみたいね。どうする?鶯丸」
「…」
「まぁ、痛いのは嫌だけど紙で切ったくらいの傷なら全然良いんだけど…」

鶯丸はゆっくりと短刀に手を伸ばし、床から引き抜いた。
「ほう」と一言短刀に向けて言葉を放つ。
どうやら鶯丸には、あの短刀の付喪神が見えているのかもしれない。
一瞬だけ、いつものように優しく柔らかな光を持った瞳から切っ先のように鋭い光を持った瞳になった。
それは鶯丸が戦場で時折見せる瞳そのものだった。

「…来るなら覚悟は出来てるわ。でも、その痛いのは嫌だからあまり痛くない場所でお願いするわ」
「…」

短刀を構え先程とは打って変わって凛とした表情を見せる鶯丸に思わず息を飲む。
ゆっくりと近づく彼の足音に反応するように鼓動が早くなる。
彼の足音が止まった。
私達の距離は今までになく近い。
来る。
覚悟は出来ていると言ったがやはり少し怖い。
咄嗟に目をつぶってしまった。

「…ッ!」

恐る恐る目を開けると、何が起きているのかわからなかった。
鶯丸が握っていたはずの短刀は、彼の手を借りて私が握っていた。
彼の温もりを感じると同時に、握った短刀の切っ先は鶯丸に向いている。
「あっ…」と声を上げたが時すでに遅し。私の意思を無視して短刀は彼の前髪を斬り付けていた。
鶯丸の柔らかい鶯色の髪が、ふわふわと羽根のように落ちてゆく。
彼の髪の毛が地面に落ちたとたんガチャっと扉が開くような音がした。

「よし、出口が出来たみたいだな。まだゆっくり茶を飲んで居たかったが、本丸で飲む茶が一番落ち着く」
「ちょっと待って!でも、傷つかなければって!それに私、今の状況がいまいち把握できてない!」
「傷ついたじゃないか俺の髪が」
「そ、そんなのアリなの?」
「大丈夫じゃないか?だって扉が開いたぞ」
「でも、貴方私を傷つけようと短刀を…」
「ん?俺は一度も君を傷つけるなんて話をしたか?」
「…し、してないです」
「まぁ細かいことは気にするな。さぁ帰ろう」
「は、はい」

彼はなんだか少し楽しそうに笑っているように見えた。
鶯丸に導かれるような形で恐らく本丸につながるであろう扉を二人でくぐった。
その瞬間世界が真っ白になった。

気が付けば鶯丸と二人縁側に座っていた。
なにか長い夢を見ていた気がする。
鈍った身体を解すようにストレッチし、左隣に座りながら器用に眠っている鶯丸を起こす。
「…ん」と少々不機嫌そうに起きた。
欠伸をしながら猫のように身体を伸ばす。

「おはよう…って、鶯丸いつの間に髪切ったの?前髪ガッタガタだよ!?」
「これか?一流の床屋に切って貰ったんだ」
「…こんなに芸術的に前髪をセットする一流の美容師って酷すぎない?」
「まぁ、細かいことは気にするな」

彼はいつものように柔らかい瞳をしながら笑っていた。
それに思わず私も釣られた。

August 11, 2016
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