「それじゃぁ、」といつもの笑顔で三郎は私に別れを告げようとしていた。私は小さく頷き三郎を見送ろうとした。いつもこの瞬間が好きじゃない。今まで一緒に居たのに急に一人になるのは、口で表せないくらいの寂しさがある。改札口の少し前、立ち止まる私たちを迷惑そうに沢山の人が横を通り過ぎる。三郎は、私の顔を見て溜め息を吐いた




「そんな寂しそうな顔、するなよ」
「だって…」
「また次の休みに会えるだろ?」
「そうだけど」



そうだけど、やっぱり寂しいよ。そうポツリと呟けば、三郎は私の手をぎゅっと握って私の耳元で「また家着いたら、電話するから」と言って頭を撫でながら離れていく。頭上ではアナウンスが三郎の乗る電車が到着したことを告げてた。



「もう、行かないと」
「うん」
「気をつけて帰れよ?」
「三郎もね」
「…おやすみ」
「…うん、おやすみ」



そう言って今度こそ、本当に三郎は改札口を抜けてホームに向かっていった。途中で私のほうを見て軽く手を振ってくる。私はそれと同じように控えめに手を振り返す。三郎が見えなくなってから、改札口に背を向けて歩き出す。向かいからは、三郎と同じ電車に乗るために急いで歩く人たち。きっと、のろのろと歩く私の事を邪魔だと思っていることに違いない。出来ることなら私だって、同じ方向に歩きたいし…。そんな悪態を吐きながら自分の乗る電車の改札に向かう。ピッと短い音と共に表示される残金は560円。ちょうど私の家に帰るまでのぴったりの料金だった。改札を抜けて階段を上れば丁度良く電車がホームに入ってくる。…ホームで三郎を探そうと思ったのに…、電車はそんな私の気持ちすら邪魔するのか…。プシューと電車のドアが開き私はその電車に乗り込んだ。吊り輪に捕まりながら窓の景色を見つつ今日のことを思い出す。今日あったことは簡単に思い出せるのに、三郎の温もりや感覚はすぐに消えてしまう…。さっきまでずっと一緒に居たのに…。そのとき、ヴーヴーと携帯が揺れる。取り出して確認すれば三郎からのメールだった。本文には「すげー綺麗」の一言だけで、その代わりに綺麗な月の写真が添付されていた。ふ、と窓の外にある大きな月を見る。その月を見た瞬間、一気に三郎に会いたい気持ちが溢れそうになる。それは酷く切なくて切なくて、私は三郎のメールにすぐに返事をした




『月、きれいだね』




愛してるのかわりに








image song by センチメンタル/平*井*堅*
(曲が男性視点だったので、話は彼女視点にしてみました。そして、どこにでも居そうなカップルのお話っぽくしたつもりだったり…^^平*井さんの曲いい曲ばかりですよね!ささなさま、リクエストありがとうございました!大変遅れてしまい申し訳ありませんでした。これからも、『ずるい。』をよろしくお願いいたします!)








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -