「何もしたくない、うごけへーん」なんて言うから、私は「あっそ」と小さく呟く。さっき買ったばかりのイチゴミルクのパックは汗をかき、私の机にぽたりとその汗を落として跡を残す。汗かきすぎだろ、イチゴミルクよ。まぁ、確かに今日は暑いけれど。といっても、今の季節は4月だぜ?そんなに汗かくなよ。って、私今までめっちゃ標準語で話してるー。ついに東京進出ってか?それこそやめてくれよ、まだまだ関西人で居たいわ。イチゴミルクよ。
「話聞いてへんやろー!」
「今はイチゴミルクと語りあってんねんから、邪魔せんといて」
「くそう、俺はそんな四角い汗っかきなやつより下か!下なのか!」
「し た だ よ」
私の言葉を聞いて、余計にやる気をなくした土屋はダラダラと私の机に寝そべる。
「もういや、何もせぇへん。俺は何もせぇへんぞ!」
「バスケは?」
「…バスケはしたい」
「わがまま」
「ついでに言えば、みょうじとちゅーしたい」
「私との接吻はついでか、このあほ。」
「うそうそ!超本気です!」と言う土屋の顔が必死すぎて気持ち悪い。て言うか、何で付き合ってもない男とキスせなあかんのよ。あー、無理無理。こうゆう勘違い男、ほんと無理。
「なー、ちゅーさせてーや」
「私、今イチゴミルクとちゅーしてるんで口あいてへんのよ。ドンマイ」
「…」
「…」
「決めた!」
そう大声を出して土屋は私のイチゴミルクを取り上げ、全部飲み干した。…イチゴミルクよ、お前はそんな未来を想像していただろうか?大きな工場で大量生産され、私と運命的な出会いをしたというのに、終いにはこんな男に飲まれる未来なんて、考えていただろうか。ていうか、ほんと土屋死ね。
「歯ぁ、食いしばれや」
「いや、ちょっとま…!」
「ほら、はよう。5秒まったるから」
「あの、」
「5」
「みょうじ?」
「4」
「え、うそうそ」
「3」
「…本気?」
「2」
そうカウントを取って、ラスト1秒。そのとき私の唇に土屋の唇が重なる。ほのかに、さっきまで飲んでいたイチゴミルクの味。…おいおい、イチゴミルクよ、勘弁してくれ。
甘い憂鬱