あなたの為に | ナノ



 まず私達はアイグレッテに向かう為ダリレシェイドを通り、ハーメンツヴァレーを渡る必要があると、ロニが説明してくれた。
 小さな田舎のクレスタとはだいぶ異なるアイグレッテは比べものにならないくらい大きく、驚くんじゃないかとロニとカイルくんはそんな話をしているのを、私は後ろから聞いていた。
 向かう場所を決める前に私はどうして旅に出たいのか、目的の意味を話の中で拾った。
 あの子、とはよく分からないがこの世界の英雄を探していて、それに相応しいのは自分だと知らせる為にカイルくんが会いたいが為の旅でもあるみたいで、すごいと思えた。それだけの事と言ってしまえばおしまいかもしれないけれど、行動に示せるのは滅多に出来ないと思う。

 だから、私はついて行きたい。二人は楽しく話ながら、その後ろについていく。二人よりも結構な後ろにいるけれど、見失う事はない距離だから私はユリアラと時々話したりしている。
 物知りかなと思ってユリアラに道とかダリルシェイドがどういうのとか聞いたけれど、寧ろ私と同じくらい知らないらしくて、驚いた。ユリアラの話だと千年も眠っていて目覚めたのは今から10年程前くらいらしい。

 だから知っているのは千年前と森の中だけで、私が来た時と森じゃない世界に出たことに少し驚いているみたいで、なんだか仲間なようで笑ってしまった。

『……笑うなよ。仕方ないでしょ、長い間眠ってたんだから』
──じゃあなんで千年も眠ってたの?……あれ、でもどうして千年眠ってたなんて分かったの?

 ユリアラは私の質問に『疑問多過ぎ』とため息を吐くように呟いて何か考え始めた。待つように前を歩くロニとカイルくんを見詰めていたら、二人が私の方を振り向いて呼んでいたから駆け寄ると古都ダリルシェイドに着いたらしい。

「あんま長居はできないが、少し行ってみようぜ」
「うん!」

『オレらは逃亡者みたいなもんだからな』とロニが言って、カイルくんはそんなのお構い無しに元気に頷いて古都ダリルシェイドへ向かった。中は崩れた家や煉瓦が積まれていたり酷い事になっている。
 私には分からない事ばかりで戸惑っていたら、ロニがここにはヒューゴと言う人がいたらしい。確か、ジューダスも言っていたけれど……ヒューゴとはどういう人なのだろう。

 詳しい資料やらはハイデルベルグという場所で図書館があるみたいで、そこなら詳しく知ることが出来るけれど……行く機会はあるのかどうか分からない。とりあえずはダリルシェイドを軽く見て回ったあと、ハーメンツヴァレーへ向かう事にした。
 やっぱり二人で前を歩いているのを見てなんだか淋しく思う自分がいて、少し驚いた。……どうして淋しいんだろう。

『話し相手とか、欲しいんじゃない?』

『それ以前に話せないから無理か』とクスクス笑いながら言うユリアラに、ちょっとだけ思うことがあって……私は背中からユリアラを外して地面に置いてそのまま行こうとしたら精一杯謝るユリアラに私は許してまた背に抱える。
 ハーメンツヴァレーに着くと橋が壊れていて、どうするか話していたら商人がピンクの服を着た女の子の話をして、半分理解出来ないまま話を聞いて崖から降りて行くとカイルくんが言い出した。

 そのまま崖を降りていたら、崖の向こうに何か光るものが見え、カイルくんは私とロニを置いて突っ走って行ってしまった。その時崖の間を飛ぶ時足が曲がらない方向に曲がった。

「っ〜……!」

 声なのか声じゃないのか、まるで息を吐き出したような掠れてるなんてものじゃない声が漏れる。そんな私にお構いなしに二人はペンダントを拾って話ながら進んで行くのを、気づかれないように後ろから歩く。
 ユリアラが心配してくれて私は大丈夫と心で呟けばそれ以上何も喋らなかった。


 奥に進むと一人の少女が忙しなく周りを見渡して何かを探していた。カイルくんが話し掛け、振り向いたら泣いていたのを見て私達はぎょっとする。大きくて綺麗な瞳からはぽろぽろと大粒の涙を流していて、不謹慎ながらも美しいと思ってしまう私がいた。

「な、泣いてるの……?」
「っ……なんですか」

 強がりながらも涙を拭ってカイルくんに背を向けて『忙しいんです』と言って去ろうとした時、カイルくんはペンダントの事を告げた。するとさっきとは違う驚いた表情をしてカイルくんの手にあるペンダントを見つめる。

「これ、君のだよね?さっき崖のところに落ちてたんだ」
「……」
「なんだよ、礼も無しか?」

 受けとった少女に対し『失礼だなあ、全くよ』とロニが肩を竦めながら言ったら、カイルくんが尚も少女の方を向いていた。少女は小さく戸惑いながらお礼を言い、下を向いた時私の存在に気付いたその子は私を見て驚いた表情をする。

「──あなた……」

 よく分からなくて首を傾げさせたら何か言いたげにしながら、しかし何も言わずに黙り込み暫くしてから私達に背を向けた。

「……ペンダントを拾ってくれたことには、感謝します。でももう関わらないでください」

『それじゃあ』と素っ気なく呟いてそそくさと行ってしまった。私達は後ろ姿が見えなくなるとロニは文句を垂れはじめる。

「あんな女追い掛ける必要ねえよ」
「ダメだよ! 絶対に俺が英雄だって教えるんだ!」

 そう行ってまた先に走って行ってしまったカイルくんに、ロニは私をちらりと見てため息を吐いて追い掛けて行った。残された私はどうしようかと見送っていたけれど、痛む足を我慢しながら小走りで追い掛ける。けどなかなか追い掛ける事が出来なくて立ち止まりそうになったが、なんとか追い付く。

 そしてアイグレッテに着く前に日が暮れてしまった為、野宿することになった。


「こんなところで野宿なんてしてたら……」
「あの子が行っちゃうよー、なんて言うんだろ。……ったく、少しは落ち着けって。こんな疲れた状態でモンスターに遭遇してみろ。オレらおしまいだぜ?」

 ロニの言葉も正しかった為、カイルくんは押し黙った。確かに今の状況だと無理だし、何より私は足が痛い。それにきっとカイルくんも疲れているだろうから、休むのが正解。流石この中での最年長でお兄さん的存在なだけある。
 私は二人が横になったのを確認して、ユリアラを抱えながら近くの月の明かりがよく見える石の上に座った。足は痛むけれど、アイグレッテに着いたらゆっくりと冷やすか歩かずやすめば大丈夫だと思う。

……今私が考える事はいっぱいある。声が出ない原因と、私がここに居る原因にあの女性の私を生かした目的。考えたくは無いけれど、でも私じゃない私がそれを考えろと訴えてくる。
 もし私が利用される為に生かされているのだとしたら? 本当は私は生きていなくて、今私がここにいるのは誰かの代わりだとしたら? 生きるべきだった人物の、埋め合わせだったら?

 私は、本当はここに居てはいけない人物なのに、それを無理矢理他人から居座らせられてるとしたら? なら……なら、私は死ぬべきではないのだろうか?


『アリア』
「!!」

 そこで私は、ユリアラの声に気付いて、膝に乗せていたユリアラを見詰める。輝くそれは、まるで私の今の考えや気持ちを知っているかのように優しく私を照らしていた。

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