あなたの為に | ナノ

「うわ! ネバネバしてる!」
「燃やす以外にないかもな。……あれに火をつけるぞ」

 出口だと思われる場所にクモの糸のようなものが巻き付いていて出られそうにもない。それにあまりにも気味が悪くて私はそっぽを向いたけど、どこも同じ風景で滅入りそうになる。そんな私と違って三人は地面にがっちりと繋がれている何かに火をつけて、考え込んでいた。
 近付いて見てみると何か切るものがないと駄目みたいで、私は思い出したようにさっき道具箱から見つけたものを差し出す。するとジューダスは目を見開いて私の手からそれを乱暴に取り上げて、石とそれの間を切った。

「ありがとうアリア! これで外に出られるかもだよ!」
「だな。……にしても、アリアに感謝しねえとは。いけ好かねえ兄ちゃんだねえ」

『あーやだやだ』と言いながら肩を竦めて首を振るロニに、カイルくんが『ただ恥ずかしいだけだよ!』とフォローするカイルくんに私は二人の暖かい感謝の言葉に嬉しくて笑顔を浮かべる。
 すると、いつの間にかクモの糸らしきものの前に持って行きそれを焼いて大きめの扉が開けられるようになった。扉の前に集まりこれで外に出られるという時に、ジューダスが私達を呼び止める。目線は真っ直ぐ前を向いたまま動かない。
 何事かと思っていたらモンスターが現れた。きっとここを住み処にしていたんだろうモンスターは、怒った様子で私達に襲い掛かってくる。


 ジューダスが小さく『ヴァサーゴか……厄介な……!』と行ってロニやカイルくん達と戦いながらも後ろで詠唱しながら戦っていた。
 私はどうしようか戦う様子を見ていたら、ユリアラに『隙を狙って攻撃!』とだけ言葉を発した。それ以外は喋らなかったけれど、それだけで分かった私はモンスターをじっと見て怯んだ隙にばしゃりと水を飛ばしながら走り出して、モンスターの懐に入る。両足をしっかりと地面につけ両腕に力を込めて一度突いてから思い切り前に両手を突き出しながら心で叫ぶ。
──獅子戦吼!

「わあ! アリアすげえ!」
「可愛いだけではなく……強いだと……!」

 モンスターは金切り声のようなつんざくような声を上げて倒れたあと、動かなくなった。その数秒あとにロニとカイルくんはそんな私にいろいろ言っていたけど、やっぱり一人は何も言わずに私を睨むように見てきていた。
 なぜか、それだけですごく居心地が悪い。

 モンスターを倒した後外に出る。ロニとカイルくんはジューダスにお礼を言った後去ろうとした私達に、ジューダスがカイルくんに声を掛けようとしてやめた様子が気になった。けれどそのまま去ってしまった彼に何も言えず、私達は地下水路からでた。

 外は真っ暗で聞こえるのは虫の囀りと、空に浮かぶ真ん丸な月だけで他は何も聞こえない。二人は慌てた様子で早く帰らなきゃと言い、山を大きく回って我が家、と言えばいいのか分からないけれどクレスタに帰ってきた。
 帰ってくればカイルくんはルーティさんに一発、頬を叩かれる場面を間近で見てしまった。



「あんた今何時だと思ってんの!?」
「ごめん、母さん……でもオレ……!」
「だからあんたには冒険なんて早過ぎんのよ! もう寝なさい!」



 カイルくんの話を聞こうともしないルーティさんはそう言い捨てて外に飛び出して行ってしまう。私とロニはどうしようも出来なく、ロニは私の頭を撫でてからカイルくんに声を掛けてから帰って行った。
 残された私とカイルくんはどうしようと思い、カイルくんのそばに行って顔を覗き込むとその顔は諦めないという表情だった事に私は驚いた。
 こんなにも意志を曲げることなく真っ直ぐなカイルくんを初めて見た。……すごく、素敵だと思う私がいる。

「あ……アリア……。ごめん、オレもう寝るね。絶対に母さんに言うんだ……。おやすみ、アリア」

 こんな状況でも彼は冒険に出たいと曲げない意志でルーティさんにぶつかって行っている。……それに比べて私はなんなんだ、この様は。
 なんで私はここにいるのかさえ分からないし、ましてや私は彼のように何か目的は無いのだろうかと思う。残された私は部屋に向かいユリアラをそばに置いて話し掛ける。とは言うものの。心で話すから、話しているのに入るか分からないけれど。

……ねえ、ユリアラ。
『ん?何、アリア?』
私ね、自分が分からないの。
『……アリアは、アリアでしょ?』
うん、そうだよね、でも……違うんだよ。
『どういう意味?』
……私、ここの人じゃ……ないから。
『……あの変な女が言ってた存在しないって、そういう意味だったんだな。ま、どっちにしたってアリアが居る訳だし僕もこうして居る訳だから、ここの存在じゃなくとも僕のマスターはお前だけだよ。……決めた!お前が僕の最初で最後のマスターだ! よし、これでアリアは僕を手放せなくなった』
……勝手だね、ユリアラ。
『んなわけない。寧ろ僕を見付けてくれたのがアリアで安心したよ』

『気になる事とかあるけど』と肩を竦めるような事を言った言葉に私は下を向いた。確かに、私は何故かユリアラが人として生きていた時代に行っていたと思ったら戻って来ていたし、それになによりこういう事にあまりにも驚かない自分もいる。
 普通ならどうしてとか何でユリアラが生きていた時代に居たのだとか、じゃあ何でユリアラは剣になったんだろうとか沢山知りたい事はある。だけどそれを追求したいと思う自分が居なくて不思議だった。
……だって、聞いたところで何かが変わる訳でもない。それに、もし知る意欲が強ければ真っ先に図書館やいろんなところに向かっている。

『……もし、あいつが冒険に行く事になったら……アリアはついていくの?』

 その質問に私は迷いなく頷いてユリアラを抱きしめた。ここではない私の世界に帰れる方法が見付かるなんて思わないけれど、あるとしたらそれも含めて探したい。それに、ユリアラの事も知りたいと思う私もほんの少し……いたりする。
 外の世界は不思議だ。私の知らない何かがあったり、私の知らない世界がそこに広がっていて、自分の世界じゃなくともすごく惹かれる。
……まだ、私は1歳で、世間で言えば赤ん坊だ。だけどそれでも私は自分を探したい。自分の、存在意味を知りたい。
 ならば今はカイルくんの冒険に一緒に行って、守り……そして探そう。

『僕は最後まで付き合うからね、アリア?』
──うん、もちろん。

 そう心で言って微笑めば『じゃ、もう寝ろ』と優しく語りかけるように言われ、私は大人しくベッドにユリアラを抱きしめながら目を閉じる。


 そして朝目覚めて1階に降りればルーティさんは昨日と打って変わって冒険へと見送ってくれた。外で待っていたロニと共に、クレスタに別れを告げて緑いっぱいの世界に飛び出した。



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