彼女ノ意識
「私は、生きたかったの。だから、早く、私の体を返してよ。あんたなんか、私じゃない。」
肩で息をするアリアとは違い、目の前に立つ“アリア”は冷めたような、そんな目をしていた。
それでも、彼女に体を返したくないアリアは首を振る。
我慢できなくなり、“アリア”はアリアの肩を掴み、『どうしてよ!』と揺さぶった。
「あんたは、あんたなんか、いらない!私がいるべきなの!」
「私、私は…いたい…ここに、いたい…っ!」
「あんたが幸せなんかなれないの!私だけ、私だけが…!」
ついには、掴みかかっていた“アリア”は涙を流し、そして口からは大量の唾が吐き出された。
不完全な“アリア”は感情も不完全だった。
喜怒哀楽の、哀。
悲しみだけは、彼女は持つことが出来なかった。
記憶を失った衝撃で、幼い知識しか持ち合わせなくなったアリアは喜怒哀楽の怒は不完全で今まで怒ることをしていなかった。
尚も、吐き出し続ける“アリア”をアリアは抱きしめ、そして頭を優しく撫でてやった。
「……あなた、は…幸せになった…それが、短かった、だけだよ…?…次は、私が…私が幸せになる…。大丈夫……また、次があったら、一緒に…幸せに…なろ?」
「っ、あ、んた…ば、かっだ…う、ぁぐ……お、えっ…!」
涙を流すと同時に吐き出す唾に、抱き締めているアリアは優しく微笑んでいた。
「やく、そ…く…だから、……!…しあわ、せ…いっしょ…なんだ、か…う"ぇ"…っ!」
『うん、うん…。』と、“アリア”の言葉に頷く、そして風景が変わり、抱き締めていたアリアの腕の中から“アリア”が光のように突然居なくなった。
先程までと違い、アリアの表情は優しげで、カイル達の知っているアリアの表情だった。
そして、アリアの頬には一筋の涙が伝っていった。
アリアの中にいる“アリア”は居なくなりはしない、しかしアリアの中にまた眠り出したのだ。
周りは真っ白になり、空間の上に浮いているような場所になった。
皆はアリアのそばにいけるようになったかと思い、一歩踏み出すが未だに近づけなかった。
ゆっくりと立ち上がったアリアはみんなの方を振り向いた時、まるで見せられていたのが幻覚だと言うように鏡が割れるような音と共に消えた。
title「何も知らないままでいたい」byたとえば僕が