目的
会話はどんどんエスカレートしていった。
ついにはカイルもリアラも声を荒げ、喧嘩し始めた。
「あなたには、なにもわからないわ!使命を負うことの重さも、本当の力がどんなものかも!」
「そんなことない!」
「わからないわ!だって、カイルは聖女でも……英雄でもないじゃない!」
リアラは声を張り上げ、そうカイルに叫んだ。
はっとしたように、カイルは息をつまらせるように、そして驚きを隠せない表情でリアラを見つめた。
そんなカイルをリアラは俯いたあと、フォルトゥナに向き直り、自分たちのいた十年前に送ってもらうよう頼んだ。
カイルの様子は変わらずで、唇をかみしめてリアラを見詰めていたが、本人は知らないふりを決め込んでいた。
更に二人の様子を眺めていたアリアは微かに口元は弧を描いており、アリアらしからぬ表情を浮かべているのを、たった一人気付いていた。
「あなたに幸運があらんことを……すべてが終わったあと、また会いましょう、リアラ。」
そうフォルトゥナが言った途端、それぞれ光に包まれ、飛ばされた。
ついた先で先に目覚めたのは“アリア”で横たわる皆をじっと座り込んだまま眺めていれば、それぞれが起き出した。
ハイデルベルグに帰ってきたと分かるくらいには周りは雪で覆われており、見覚えのある景色が視界に映る。
みんな一息つくようにそれぞれ話すが、ロニの呼び掛けにカイルだけはリアラを見つめ、リアラはカイルの視線から逃げるようにそっぽを向いた。
二人の雰囲気は悪く、ロニは気遣うように声をかけるがやはりと言っていい程に空気は良くならなかった。
「…あんたねえ。もうちょっと空気ってもんを読みなさいよ。」
「うるせえ!おまえ、用が済んだんならとっとと帰って……」
まるで当たり前のように注意をするナナリーにロニはいつものように返事をするが違和感を感じ振り返れば居るはずのない人物が何故か一緒に来ていた。
皆驚きナナリーを見ると肩をすくませて『どうしてもなにも、光に巻き込まれて気付いたらここにいたんだから。』とどうってことないかのように話すナナリーなリアラはすぐに未来に返すと言うが、否定した。
「あたしも、あんたたちについていくことにするよ。」
「……なんだって!?」
大袈裟のように反応したロニをナナリーは見たあと話し出した。
「エルレインは、勝手に歴史を変えて自分の都合のいいようにしようとしてるんだろ?なら、あたしはそれを止めてみせる!あいつの好き勝手には、させないよ!」
自信満々に言うナナリーにジューダスが注意をするかのように歴史を変えることになると言い、自分を見だしたナナリーに更に言葉を続ける。
「それにだ、この時代の人間ではないおまえがここにいるだけで、歴史は変わってしまっているんだ。」
「それを言うなら、あたしたちの時代にあんたたちがいたのもマズいんじゃないのかい?」
「そりゃまあ、そうだが……。」
「なら、お互い様って事だね。今更言ったって、はじまらないよ。というわけで、あたしはあんたたちについていくよ!もう決めたからね!」
頑としてついてこようとするナナリーにジューダスはカイルについて来て良いかを委ねた。
カイルは頷き、付いてきても良い事を了承した。
それに対してナナリーは張り切ってガッツポーズをするが、ロニはぶつくさといい始め首を振っていればあざとくナナリーが問いかけるが、今はそんな所ではないと言いたげにジューダスが『ともかくだ!』と静止させた。
「……まずは、ウッドロウに会いに行くことにするぞ。あのあと、ハイデルベルグ城がどうなったのかを、見ないことにはな。」
その言葉に頷き、城に向かい歩くみんなをジューダスは見たあと“アリア”に目を向けた。
「……貴様はあとでじっくりと話を聞かせてもらうぞ。…貴様が誰なのかをな。」
ジューダスの言葉に何も言うことなく、そっと、先程のように笑を見せ、“アリア”にはない鋭い目つきでジューダスを見遣った。