ちしき
彼女、アリアが連れていかれた場所は小さな部屋だった。
つい先程までいた場所とは異なり、穏やかな日の光りが差し込んでいてとても暖かい。
一枚の布のみを被せられた状態で抱き抱えられてベッドに降ろされる。
ただ、横になったまま目の前の人物を見つめた。
それはまるで赤ん坊のような、眼差しを向けて。
彼女を運んだ人物は何も言わずに部屋を去った。
暫くして一人の女性が入ってきて、横になっている彼女を見て悲しい表情をしたあと優しく微笑み、自己紹介をした。
「初めまして。ミアと申します。今日からあなたの世話をすることになったの、よろしくね。」
「…?」
きょとんとした顔で女性、ミアを見つめるアリアは理解していないようで目を瞬きさせているのをまるで我が子のように頭を撫でたミアはゆっくりとアリアを抱きしめた。
そして、静かに涙を流し、囁く。
「……っ…まだ、生まれたばかりなのに…こんなの、あんまりよ…。」
何も分からないアリアはただ抱きしめられ、ただ泣いている姿を見ることしかできなかった。
暫くして泣き止み、ミアはこの日からアリアに様々な事を教え込んだ。
言葉、計算、世界、そして身を守る為の術を教えた。
飲み込みは早く半年で知識を覚えた。
しかし身を守る為のことに関してはなかなか覚えてはくれない。
それはミアが得意とする弓なのだが、極端に嫌がり格闘技のみを覚えていった。
それでもミアは不満を吐かずにアリアを育てて、ついには一年が経つ頃にアリアは言った。
「…ねえ、ミア。私、怖い。」
「怖い、て?」
「いつか、死ぬ、ていうのが…怖い、…の。」
「…。」
「いろんな本を読んで、いろんなお話を聞いて、私…最近、考えるの…死んだら、やだなあって…ミアと、離れたくないよ…。」
見た目は、16歳そこらの大人しめな容姿をする彼女からは思えない子供のような話し方。
しかし、生まれてまだ一年の彼女はこれが精一杯の事で、ミアもそれで納得していた。
アリアの突然の『怖い』事を聞き、彼女の末路を知っているミアはまたあの時みたく涙を流しそうになった。
それでも、ミアはアリアを抱きしめて優しく『大丈夫』とだけ囁いた。
アリアが不安にならないように、笑顔でいてくれるように。