客人
アリアが連れて行かれた場所は不気味なくらい清潔感があり、だけど人が住むとは考えられない場所だった。
右も左も向いてもあるのは、ただの白だらけで地面に足がついているのかさえ分からない。
アリアは虚ろな瞳でただ同じ言葉を繰り返していた。
前の世界で生きていた頃とは違う、自分が死んだんだと知った時の絶望は凄まじかった。
エルレインは虚ろな瞳のアリアをまるで慰めるようにへたり込むアリアの頭を撫でながら優しく話し掛け始めた。
「アリア、エクリアよ。悲しむことはない、私が全てお前の願いを叶えてやろう。死んだ事の事実は変わらない、しかし私に願えばこれからも生きてゆける。私に、従えば…。」
そう言ったエルレインの口元は緩く弧を描いていた。
その表情に気づかないアリアはただ、そこに居ない誰かに思いを馳せていた。
カイル達は一度城から出て来たところで、ジューダスに叱られたりと何とか立ち直ったカイル達に、城には飛行竜がぶつかった。
ぶつかる前、カイルとリアラは広場らしき公園に、その二人とは違うあまり目立たない場所で同時に起こった。
アリアが連れて行かれた数分後に城に飛行竜がぶつかったということだ。
城に入る直前、言うのを考えていたジューダスにカイルが気付いたように周りを見渡してアリアを探した。
「あれ、アリアは?」
「アリアは…」
そう然に出たカイルの疑問にジューダスは下を向いて言い淀みながらもアリアがさらわれたと言った。
誰か、までは言わないジューダスにリアラはもしかしてと呟いたが城の中から傷だらけの男が出て来てそのまま雪に埋もれるように倒れ込んで目の前にいたカイル達に助けを求めた。
アリアの事よりも今は目の前の事に取り組むことにしたカイル達は直ぐ様城に入り奥へ進んでいく。
その頃アリアはエルレインによって、ウッドロウの前に差し出されていた。
エルレインのやらんことに同意できないウッドロウはエルレインの望むことに頷かないで否定していた時にまるで最終的だと言わんばかりについ先程連れ去ったアリアを連れ出して来た。
「どういうつもりなのかね?」
「一国の王が、目の前で人が死ぬのは許されないだろう。さあ、レンズを渡して下さい…。」
「なんて卑怯な…。だが、…。」
そっといつでも戦えるようにしているのか、そばに剣があり、それを手に取ってエルレインに構えた。
それが分かっていたエルレインはニヤリと微笑んだかと思ったらエルレインの背後でまるで時空が歪んだように黒くなりやがて人型へと変化した。
青い髪に鍛え抜かれた体格、浅黒い肌に奇妙な禍々しい斧を傍らに仁王立ちしてエルレインの後ろからウッドロウを殺気放つ瞳で見つめていた。
口元は緩く弧を描いており、早く戦いたいという表情をしているバルバトスに対してエルレインは尚も聞くが頷くことなくただエルレインをみつめるウッドロウにゆっくりと瞳を閉じて、小さく呟いた。
「交渉決裂、か。致し方ない。」
そう、言ってアリアと一緒に後ろにいるバルバトスと入れ替わるように下がればすぐさま目の前で戦闘が始まった。
バルバトスは殺気を全開にしてウッドロウに斬り掛かっていく。
臆することなくウッドロウは大きな斧を受け止めるが力の差が歴然で、すぐに膝が付きそうになったが下を向く事はなくバルバトスを見てエルレインとアリアを見遣る。
ウッドロウはそこで、不自然に気付いた。
エルレインはどうして人を使ってきたのかに疑問を持ち先程までとは違う雰囲気に眉をひそめて考えようと思ったが、今は戦闘中な為目の前の人物に集中した。
右に左に攻撃を受けながら何とか反撃を試みようと思ったが、一撃の重さが格段に違い最近あまりにも動くことをしてなかったのが今になって悔いてきたがそんなことを言ってられなくなる程に食らう攻撃力が強くなりついには手元の剣が弾かれそのまま左胸から下腹部にかけて大きく斬り裂かれた。
「ぐあっ…!」
そのまま後ろの玉座に体をぶつけ、まるで座り込むようになってしまった。
体からは大量の血が溢れ玉座周辺を赤黒い血で染め上げていく。
バルバトスはつまらなさそうにウッドロウを見下しながら斧を振り下ろそうとした時叫び声と共に受け止められた。
バルバトスの斧を受け止めたのは多少傷だらけのカイルだった。
更に入り口には武器を構えるジューダスとロニとリアラが居て、隠れるようにして見届けていたエルレインは密かに微笑んだ。