あなたの為に | ナノ





夢を見ていた。

それは私じゃなくて、他の人のような夢。


大好きな人がいた、大切な人がいた、なのに大切な人は失ってしまった。

怖かった、人がいなくなってしまうなんてこんなに怖いものだなんて。

だけど、私じゃない夢なのになんでこんなにも怖く感じるんだろう。

私の大切な人、大好きな人、居たような、居ないような。

ぐるぐる回る、まるでそれは繰り返されるような、そんな感覚がした。

お前は繰り返している、終わらない輪廻の中にいる。

そう言われているような気がした。


私はどうして声を失ったの。

私はどうしてここにいるの。

私は何の為にここに現れた。


アリア、エクリア…私の名前。


それが本当に、私なのかさえ、分からない。

ああ、全部が全部言葉であり言葉じゃない。


ただの言葉、連ねられた言葉。

意味はない。



「……アリア。」



聞いたことのある声が響く。

冷徹、感情はない。

しかしそこには哀れみが含まれていた。

私はこの声が嫌いで、逃げてしまいたくて。

でも、語りかけられる、逃げられない。



「お前は、…誰だ。」



知らない。

私は、私であって、でも私ではないのかもしれない。

自分の中にあるもう一人の私が出たがっていて、だけどそれを許してはいけない気がして。

怖い、知らない、怖い、誰、やだ。



「お前には…」



聞きたくない、話さないで、語りかけないで。


必死に逃げても声は頭に響いているようで逃れられない。

だから、私は息を止めた。

息をしているかどうかなんて分からない、だけど息を止めた。


何故か、それが逆に居心地が良くて安心して息を止められて、頭に響いていた声が消えて、代わりに違う声が響いた。

知ってる、知っているから、ずっと聞いていたくて、縋り付くように息を止め続けて追い掛けた。

追い掛けたはずなのに足は鉛のように重くて進めなくて、ここがどこだか分からなくなる。

…何、していたんだっけ。


そう呟いた途端に私は思い切り起き上がった。


一番に目が合ったのは目を見開いたジューダスだった。




prev * 38/117 * next
+bookmark
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -