のうり
「おお、いらしてくださいましたか。どうぞ、中へ。」
「あなた様なら、いつでも大歓迎でございますよ。」
意を決して戻ってくればさっきと変わらない笑顔で私を中へ招き入れた。
話す事が出来ないから小さく微笑んでから中へ入る。
すると、道が二つに別れていて、どちらにするか考えて右に行ってみる事にした。
自然が多少あるこの場所に自然と気持ち良さがあって暖かい感じがするけれど、なんだか居心地は悪いと思ってしまう。
進んで行くと少しの高い場所になっており、行き止まりだった。
『あははっ!アリア道間違えてんじゃん。ばっかだなー。』
いきなり笑い出したユリアラに私は何も答えずに高台から見える建物を見つめる。
白を基調とした建物で、いかにも神殿と分かるが、何かが足りない感覚がしてきた。
ただ私が分からないだけで気のせいだと思うから無視しておく。
『…なんか、気味が悪いな。』
うん、私あそこ行きたくない。分からないけど、何かが嫌だ…。
『作られた何かがある感じ…今はあるけど、いつか時間が経つと無くなっちゃうような…そんなもんかな。』
どんどん無くされる、てことかな。
『まあ、そんな感じ。』
……やだね、無くなるの…。
じっと建物を見詰めたままユリアラと会話する。
さっきよりも、私が聞いた事のない真剣な声で話すユリアラになんだか不思議と背筋が伸びる感じがした。
じっと眺めていては何も変わりはしないから、高台から降りてもうひとつの道から神殿に向かう。
すると、ピンクの服を着た女の子が中に入っていくのが見えて急いであとを追い中に入ると女の子と綺麗な女性が居て、女性は私が入ってきたのと、女の子が入ってきたのに驚いていたけれども、女の子の方は私の驚いていた。
「あ、あなた…昨日の…。」
「お知り合いなんですか?」
緑色の髪をした女性が女の子にそう聞いていたけれども、女の子はすぐに否定して『それよりも…。』と胸の前で手をぎゅっと握り、女の子は綺麗な女性に語りかけた。
それは彼女の言う英雄というものだった。
そこで知ったのは、彼女は英雄を探しているということと、英雄に出会いたいということで私はその光景をただ眺めていた。
「教えてください!フィリアさん!どうすれば、英雄に出会えるんですか!?」
「…では、あなたはどうして英雄を求めるのですか?」
眼鏡の奥から見える優しくて全てを包み込もうとする瞳が彼女をじっと見据えている。
必死な彼女に比べて冷静なその人を見ているとなんだか気持ちが落ち着いてくるような、優しくなるようなそんな感じがするのは、きっとこの人はとっても優しい何かがあるんだと、本能的に感じるからだろう。
「力が、欲しいんです…。」
「力…?」
そう答えた少女に眼鏡をかけた女性はそう繰り返して聞いたら少女はゆっくりと深く頷いて続けた。
それに私はただ話を聞いているのみで、見ているだけにとどまるしかできない。
英雄は力で世界の運命を左右する、どこにあるのか知りたい、今のわたしの力では足りない。
それに対して女性のフィリアさんはどうして必要か、それを手に入れてどうするのか、そう優しく問いただすフィリアさんに少女は一旦息を止めるようにして下を向いた。
「…答えられないということは、私があなたの求める英雄ではないから?」
「…すみません。」
寂しそうにするわけでも怒るわけでもなくただそう言うフィリアさんに少女はまだ下を向いたまま謝罪したあと顔を上げて『悪いことには使いません!』と力強く、だけどやっぱりどこか焦ったように言う瞳に嘘は無いような、信じて欲しいと訴えかけているように見えた。
それに対してフィリアさんは変わらず、でもさっきより優しく頷いて『わかっています。』と答えた。
「…だからこそ、お聞きしたいのです。」
「…。」
『何を望むのか、私には…』とそう続きを言おうとした時フィリアさんの後ろの方で空間が歪んで黒い何かがそこに出来上がり、何かが出て来そうな雰囲気があった。
フィリアさんは気づいてないようで少女を向いたままで、ついに黒い何かから男の人が現れた。
浅黒く長い青い髪に鍛えぬかれた体、そしてその顔は狂気で歪んでおり今にも壊してやらんばかりに微笑んでいて、怖かった。
けど、そう考える前に私は痛い足を我慢してフィリアさんの後ろに立ちはだかり、男と対峙する為拳を構えようとしたがそんな私はまるでただの障害物としかないように男の持っていた彼同様に狂気に包まれた大きな斧によって肩から斜め下にいくように切られた。
その時脳裏に胸に矢を射ぬかれるのを思い出した。