こあくりすたる
優しく彼女をコアクリスタルで照らせば、さっきまで今にも死にそうになっていた表情からいっぺんして柔らかな、でも泣きそうな顔を僕に見せた。
僕がソーディアンになって、もう千年も経っていた。
誰かが僕を求めるような、そんな声が頭の中で響いたのが多分、約10年前くらいだった気がする。
そう思えるのは、目覚めてからの僕の周りの変化、というより声だった。
時折聞こえた人の声、まあ今思えばそういう奴らは盗賊で僕を売り飛ばすかしようとしたんだろう。
だから、たまにそいつらの話す『千年前の最後の代物』っていうのは僕の事で推測するに他の上官達は何処かにまだ眠っているか、それとももうマスターを見付けて手を出しにくくなってしまっているか、最悪の場合はコアクリスタルを壊されて役目を終えたかくらい考えられる。
ま、もっと最悪だったら売り飛ばされてるとかなんだろうけれど彼らに限ってありえないと考える僕はあんな人達でも僕は信用してたんだと思い知らされるが、そんなのは気にしてられない訳で。
日に日に盗賊の僕を探す数は増える一方だったけど、そう簡単に見付けられない複雑な場所に安置されていた僕は幸い今まで見付からずに居られたが、でもやっぱり僕はあそこにいて少し焦ってもいた。
壊されなければ僕は生きていられたかもしれないけれど、それでも今の僕のマスター…アリア以外の手に渡ると考えるだけですごく嫌に感じるのはなんでだろう。
彼女からは何だか違うものを感じるのに、それは僕と似ているようで似ていなくて、いつもそこに居たような存在で当たり前に居るような感覚。
居ると安心出来て、何しても許されるようで、僕がここに居ても良いと思われているそんな感じが漂っていて、不思議と離れたくないと感じる。
好きとか、恋愛感情ではない、まるで兄妹みたいな、そんなやつ。
アリアの感情を汲み取るのは難しいんじゃないかと思っていたけれど、すんなりと分かって正直驚きもしたが嬉しくも思った。
『あんまり、思い込み過ぎないようにね。僕はここにいるからさ。』
綺麗な月の光がアリアを照らしていっそう美しく見せる。
だけど、彼女は見た目は16歳とかそこらなのに、生まれて1年とは思えない容姿に驚いた。
話し方は確かに子供で、アリアに惚れた男はその言葉遣いとかできっと絶望するんだろう。
変な趣味を持つ奴は例外だけども。
僕の言葉にアリアは頷いて一言ありがとうと告げた。
この世界の人間じゃないとかそんなのはどうだって良い事なのに、今もそれを考えるアリアを人間だったら僕は一発げんこつするか思い切り叱り付けていたかもしれない。
それはアリアが年相応に見えて、事情を知らなかったらの場合。
今の僕はアリアにいろいろ教えなくちゃいけない、親みたいなものだから。
僕を使うなんてアリアはしないかもしれない、だけど助ける事や一人の時は言葉を掛ける事は出来る。
アリアを一人に、独りにすることはしない。
それが、僕のマスターへの忠誠心。
すぐに出会ったとは思えない感覚は、誰にだって不思議がられるけれど、僕が彼女に出会って数日で感じた事だから。
アリアを守る。
心、想い、気持ちを。
『僕はアリアのすぐ近くにいるから。誰よりも近くに。』
……ありがとう、ユリアラ。
声が出ないのに、心での声と口の動きで伝えたアリアはそのまま僕をぎゅっと優しく抱きしめてコアクリスタルに頬を擦り寄せる。
くすぐったいと、そう言えば可愛らしく笑うアリアに僕は凄く満たされる気持ちになった。
最初で最後の、僕のマスター。