あなたの為に | ナノ
ひよこ



「そこに蝋燭があるだろう。火をつけたら一定時間火はここをともしている。その間にここから移動するぞ。」

ジューダスがそう言った後、カイルくんは頷いてかろうじて見える暗闇の中、壁に付けられるように台の上に置かれている蝋燭に火をつけた。

それと同時に先頭を歩くジューダスの声と共にこの場所の出口を目指す時、ロニが何か小さくぶつぶつ言いながらも私の前を歩いていたのを見て気にしてはあまりいなかったが、少し不思議に思った。

膝まであった水が段差のある場所で一気に胸の辺りにまで深くなり歩きにくくなるのと、蝋燭の火がどんどん弱まっていっていた。

カイルくんとジューダスが先に進んでおり、ロニが私の体が自分以上に歩きにくくなっているのを見て手を貸してくれて、というよりも抱き抱えられたけれど、なんとか進めた。



「大丈夫か、アリア。にしても、可愛いのにそこに身長が小さいと来た。まさに俺の女性の好みを変えさせる不思議な女…。俺はもう、アリアの虜に…!」


「ロニー!アリアー!早く来いよー!」



光が見える少し遠くからカイルくんの声にロニは私を抱えたままため息を吐きながら急いでカイルくん達のところへ向かうとカイルくんとジューダスが私とロニを見て何しているんだという顔をしていた。

私はロニに降ろして欲しいと思い、少しもがいたらなんとか降ろして貰いお礼のつもりで頭を下げる。



「いや、別に構わねえけどな。…むしろもうちょいな…。」


「もー、ロニ何ぶつぶつ言ってんのさ。早く行こう。」



また何か言いはじめたロニにカイルくんは呆れるように怒りながらジューダスの後をついていく二人に私はそっとユリアラに触れる。

目覚めてから話さないユリアラに私は少し不安になっていた。

もし、私が話せなくなってしまったのがきっかけでユリアラと話せなくなってしまったら悲しい、何故か凄く悲しい。

出会ってまだ短いのに、なんだかずっと一緒に居たような感覚がして、悲しくて辛くて、泣きそうになった。


でもそんなことがあっても、いつかユリアラから話し掛けてくれると信じて三人の後をついて行く。



暫く進んでふと少し段差になっていて濡れていない場所に何か道具箱みたいなものが置かれていた。

皆は気付いてないようで、私はその箱を開けて中を漁ってみる。

すると中からひよこやらはさみやらがあって、私はその中からひよこと何か不思議な形をしたものを見ていたら、ジューダスが私のところに来て無言で何をしているのかと言いたげな目を向けてきた。

私はひよこをジューダスに見せて微笑んでみせたら、仮面で見えにくい目元は嫌そうに細められるのが下から見上げているだけでも分かった。

でも、私は見せる事をやめずにしていたら突然手からひよこが消えた、ではなくひよこは宙を舞って膝上くらいまである水の中にぼちゃんと落ちていった。

よく見るとジューダスは手を横にしていて、私の手も何かによって叩かれたのか横にあった。

あ、そっか、私、ジューダスに叩かれてひよこが水の中に入って行ってしまったんだ、きっとそう。

でも、なんでそうなったのかよく分からなくて痛い手を胸元まで持って行きジューダスから目を離すことなく見つめる。



「僕は、お前を信用できない。」


「…。」



なんで、とは言えないし聞けない、だからただ私は首を傾げさせてどうしてかと行動で見せてみたけれどそれは余計に彼を不機嫌にさせるだけで更に顔を歪めさせてカイルくんやロニのところに行ってしまった。

置いて行かれた私は後ろ姿を眺めて、暫くしたあと水の中に沈んだひよこを拾って汚れを拭ってあげた。

自分が泣いてるなんて、知りもしないで私はひよこが泣いてるんじゃないかと思いながら。




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