まどろみ
『まあ、とりあえず、だ。』と言った後すぐにここを離れるように言われた。
どうしてなのか問い掛けようとした時静かだった場所が突然騒がしく木が揺れたり草が踏み付けられる音が多く、そして多くなる。
『僕目当ての盗賊の奴らがお前の後を追ってたみたいだからな、早くしないとお前は殺されて僕は…どうなるかなんて知らねーけど、ある意味で僕も殺されるんじゃないかな。』
「え、え…どうすれば…。」
呑気な声を発した剣は慌てる私に『早く僕を持って逃げるぞ!』と大きく言ったのを聞いて、私は急いで剣を持ち来た道を戻るように走った。
剣を胸で抱えるように走っていると、そこかしこから男の人の声が叫ぶように聞こえる。
『あっち行ったぞ!』とか『絶対に手に入れてやる!』とか言うのが丸聞こえで、怖くて止まることなく走った。
走っていないと、追い付かれて殺されてしまうんじゃないかと思うと止まれない。
『お前とろいなー。』
「うぅ…走るなんて、久しぶり…なんだもん…!」
『へえ…。にしてもお前見た目に比べて喋り方ガキみたいだな!』
『だって一年しか生きてないから。』と言えば耳をつんざくような叫び声が聞こえた。
それはもちろん剣からで私はびっくりして剣を落としそうになったけれど、なんとか落とさずに走り続ける。
『はあ!?一年って…、っつーことはお前…1歳?』
「うー…話し掛けないでよ、走るの、…大変なんだよ…!」
剣の質問を無視して私は走るのに専念した。
もちろん私の大変さが声で分かったのか黙り込む前に『いざという時は僕を使えよ。』と言って黙った。
暫く夢中で走っていたせいか、盗賊らしき人達の声は聞こえなくなった時に森から出られた。
やっと出られたと思った時、見知らぬ女性がまるで空から降りてきたように現れて、私は驚いてその場に尻餅をついてしまった。
人とは思えない真っ白い肌に長い手足、まるでそれは本の中で見たことのある聖女そのものを貼付けたような姿をしている。
その女性は私を見付けた途端に清楚な顔立ちからは思えない驚いたような焦ったような表情になっていて、私は目が離せなくて見詰めていたら切羽詰まるように言われた。
「お前は…私の脚本上には存在しない…。お前は、誰なんだ…これでは私の計画は…っ!」
「え…。」
その人の言っていることが分からなくて私は首を傾げた時いきなり私に手をかざした。
私は剣を抱えたまま目をつぶったが何も起きなくて、恐る恐る目を開いて目の前の人を見たら私に手をかざしたまま、突然微笑んだ。
「ふふ…分かったぞ…これも、私の知らない間に脚本に組まれているという訳か…なんと面白い…。こうでなくては、な…やり甲斐がない。」
一人で何か言っては満足したようで、私に冷たいような人とは思えない笑顔を向けて『お前には上手く動いてもらおう…。』と言って去って行った。
それと同時にまた盗賊の声に私はハッとして走った。
手元にある剣は黙ったまま何も喋らなくて不思議に思ったけれど、気にすることなく走り続けていた時、石につまづいてしまった。
「いったぁ…ううっ…。」
『お、おい…大丈夫か?』
やっと話した剣に頷いて立ち上がった時盗賊の数人が私の前に現れた。
『死ねえ!』と叫びながら一人の盗賊が私に切り掛かろうとして、私は目をつぶった。
まだ、まだ死にたくない。
そう思った時に頭に声が響く。
『やはりお前は、脚本上に存在してはいけない。』
それを最後に私は意識が無くなってしまった。
≪平和な家≫