もりのなか
暫くして降りてきた三人は楽しく会話していたため、私は一旦着替えてこっそりと外に出た。
初めてここでの外出。
橋を渡ると、そこには多分噴水なんだろうそれがここを象徴するように綺麗な水が噴き出していた。
とても穏やかで、優しい感じがするこの場所に私は居たんだと思うと、すごく外に出る事が遅かったんだと気づかされてちょっと勿体ない。
でも、これからもここに来て外で一杯空気を吸おうと決めて私は歩き出す。
お店や宿、それに畑や小鳥達、たくさんの自然がそこにあって私は初めて実際の目で見るものばかりで興味が沸いた。
畑を見つめていたら小さな虫が土の上を歩いていたり、柵越しに犬がしっぽを振って吠えていたり。
そしてふと私はこの小さな町の境界線らしきところに立った。
そこはここと違い草が勝手に生えていて私は一歩踏み出してみた。
踏んでみて土とは違う柔らかさに私は興味を引かれてその上を歩く。
暫く歩いてふと、前を見るとそこは木が沢山生い茂っていて、森だと気付く。
あの町近くにこんな森があったなんて分からなかった。
でも、私は相当遠くまで来ていたらしく周りを見渡しても町の家の屋根らしきものは見当たらない。
少し怖くなって私はそのまま森の中をさ迷い歩く。
時々聞こえる鳴き声に草を踏む音、そして薄暗さに私は自然ど自身を抱きしめるようにして周りを気にしながら歩いた。
もしこのまま帰れなかったら?
ルーティさんやカイルくんに迷惑を掛けて、いつかここに居た私を見付けて泣くのか呆れるのか、はたまた忘れられてしまうんじゃないか。
そんな考えが頭の中を支配して、怖くなって涙が出てきそうになった。
まだ、死にたくない。
死ぬなんて、まだ、生きていて、ほんの一年しか生きていないから。
その時頭に響く声が聞こえて来た。
こっち、と囁くようなそんな声に自然と足がそちらに向く。
頭に響く声は最初は小さかったのに近付いているんだろうそれは、どんどん大きく頭に響いてくる。
徐々に早くなる足に私はついに走っていて、高く成長しきった草を掻き分けた時に目の前にそれは現れた。
大きな石と木で出来ている場所は生い茂っていて薄暗いにも関わらず私にはその場所だけはっきりと見える。
少し戸惑ったけれども、ゆっくりとそこに近付くと一本の剣が守られるように置かれていた。
「…剣?」
ぽつりと呟いた言葉は私以外誰にも居なくて自分の声だけ聞こえる。
目の前にある見たことのない形の剣を手に取ろうとして触れる前に止めた。
もし、誰かの忘れ物だったら?
あの声が、もしただの幻聴だったら?
私は剣を手に取るのが怖くてそのまま一歩下がった時にまた声が聞こえた。
しかもそれは鮮明に、直接響く。
『ああ…僕のマスターになる人がやっと現れた。長かったー。』
「え…と…。」
『ん?でもなんか、違うな…あんたから感じるエネルギーってやつ?普通より半分っていうか、作られてるっていうか…。』
『ま、関係ないか。』とか『久々に話せたー!』とか『僕、すごく退屈だったんだよ。』とか勝手に話し出す声に私は周りを見渡すが、人一人居ない。
『あ、僕はこっちね。ほら、ここ。』
「…?」
まるで自分を示すように言う声と同時に置かれていた剣の一部分がチカチカと光っている。
分からなかったけれど、それが呼んでる気がして目の前に立つと『やっと来てくれたか。』と元気な声が聞こえた。
間違いなく、声はこの剣から放たれていた。