ぎもん
カイルくんに案内され、私はお風呂に入った。
道は覚えたからゆっくりとお風呂に入るだけ。
脱衣所で服を脱いでありのままの生まれた姿になり、風呂場に入る。
そこに小さな鏡があってふと目を向けると真ん中の胸のあたりに小さく、黒い跡があって不思議に思って撫でた。
その時私は自分が死んだんだと思い出した。
矢を射ぬかれて、死んだはずなのに…。
私は生きていて、息をしていて、話して、笑って、考えて、動いて…。
――――子供。
ふとカイルくんに言われた言葉を思い出し、私はその場に崩れるようにうずくまって泣いた。
確かに私はまだ子供だ。
鏡で見る私はこんなにも大人びていて、話せば子供じみていて。
こんなんじゃ、私は代わりになんてなれない。
…代わり。
「私…は、…。」
そう呟いた自分に思いだそうとしてでも出て来ないものと戦った。
私を育ててくれたあの人との毎日は、つい最近のはずなのに思い出せない。
私は、私が、私の、私で。
私…なんでここにいるんだろう。
何も分からなかった私をあの人は大事に育ててくれて、子供のように、時には妹のように、毎日楽しくて。
怒ると少し怖くて、泣いてる姿なんて見たことないくらい強くて、優しくて、大好きだった。
私はこんなところで何してるんだろう、そう思い始めた時に思い切り頭を壁にぶつける。
「い、…った…。」
すごい音が響いたけれど、気にすることなく私は体を洗いはじめた。
私は言われた。
言われて、必ず途中で放棄するようにしていた。
自分で自分が分からなくなっちゃいけないと。
何がどうであれ、私は私だからって。
私は、私。
だから、考えてはいけない。
見失わないでと、自分を持ってと。
私は…――だからと。
肝心な場所は、お約束のように思い出せはしなかったけれど、その言葉をくれたあの人を私は信じて守ってきた。
教えられたことは一杯あって、毎日が充実しているようで、大変だったけれど、でも、今はどうするかを考えてたりする。
いや、本当は考えていなくて、逃げているだけ。
「…シャンプー、は…どれ?」
私の中には私がいて、でも私じゃないような奴がいて自分で考えていることが自分じゃない奴が考えていたりして、時々、怖くなる。
今どうしてこうなっているんだとか、本当は考えるべきなのに。
死んだんだと割り切って、私は今ここにいるから…だから知らないふりをしてる。
やっと洗い終えた私は湯舟に浸かって考えることを捨ててお湯の温かさを味わう。
両手で掬っては指の間からこぼれていく。
そんなお湯を眺めて遊ぶ私は、やっぱり、幼いんだろう。
自分で言うのもおかしいかもしれないけど、仕方ないとしか言えないから。
「アリア、大丈夫?」
ふと意識を戻すとカイルくんが声を掛けてくれた。
きっとルーティさんに言われて心配して来てくれたんだろう、それだけで私は嬉しくて笑顔になってしまう。
『大丈夫です。』と小さく言えば向こう側からカイルくんのよかった、という声と共に戻ろうとしたカイルくんを呼び止めた。
「?どうしたの?」
「えっと…一人だと、嫌だから…待っててくれるかな…。」
少し考えてから元気よく返事してくれたカイルくんに感謝して、温くなってしまった湯舟から出た。