「あなたの為に、私は……」
揺り篭のように、一定のリズムを刻む。
そのリズムは、抱き上げられて揺れているのか、しかし誰かに、何かに抱き上げられているようには感じられないそれは、まるで自分が浮いているような感覚。
ふと、ゆっくりと瞼を開けて前を見据える。
白い空間しかないのに、体が上手く動かせない。
いや、動けないが正解かもしれない。
その時突然大量の情報が流れてくる。
まるで忘れてはいけないと言われているかのように、流れ込む。
薄く開いていた目を思い切り見開いてやっとのことで思考することを遮断され、またゆっくりと目を閉じた。
自分は、何者なのか。
どうして、こんなにも…考えるのか。
真っ白な空間で考えても分からない。
いや、考えていることさえ分からないのかもしれない。
体が痛む…体が軋む…。
体が…目が…腕が…足が…頭が…首が…手が…頭が…。
自分を構成するものをこんなにも知っているのに、何故か分からない。
自分は…何者?
そう振り出しに戻った時、ゆっくりと浮いているような感覚から解放される。
砂のような、体にじゃりつく何かに僅かに不快感を感じて目を開いた。
「お前さん、どうしてこんな所で寝ているんだい?」
動かない体に仕方なしと、視線だけを少し持ち上げて上を見上げる。
そこには、人がいた。
「……、……」
言葉が出ない。
思考が遮断される。
考えられなくなる。
私は……。
第一幕「あなたの為に」完
20151118