幕開け
体が勝手に動いていた。
ううん、私はこうしなくちゃいけないと思った。
咄嗟に背後から襲いかかれば、避けられて振り向きざまに腹部から背に貫通する激痛が襲う。
「…………アリア、……?」
ジューダスの驚いた表情は、これで何度目なんだろう、なんて不意に考えてしまった。
私は、エルレインによって意識を完全に抜かれていた。
本体である私の体はまるでバルバトスに従うように動いていたようで、少し前まで聞こえていた声はバルバトスに違いないと、確信していた。
そして今ジューダスとの別れを話していた二人に、私は我慢ならなかった。
たとえそこが、シャルティエさんじゃなくてもいいと思うのなら。
「……ゆ、りあ…………」
『ああ、わかってる。おいジューダス。僕を神の眼に突き刺せ』
呆然としているジューダスは動くこともできないでいる様子だった。
痛いけど不思議とそこまで痛いと思わないのは、きっと私の体は体として機能していない証拠。
なかなか動かないジューダスを見かねて、そばにいたハロルドさんが動いて私の手に握られていたユリアラを手から離した。
「神の眼に突き刺せばいいのね?」
「ん……」
「ちょっと邪魔」と未だにシャルティエさんを握っている手を離させてその場から後ろへ下がらせる。
そして私の顔の横に、ユリアラを突き刺した。
「……全く、最後まで私のそばにいるんじゃなかったけ?」
『っはは、怒んないでくれよ……ソーディアンとしての僕は、ここでさよならってだけ。……大丈夫、僕はずっとハロルドだけだからさ』
「ほんっと、馬鹿なやつ」
私にしか聞こえないように会話をする二人に、私は「えへへ……」と弱気な笑い声が出てしまう。
ハロルドさんもそんな私に微笑んでくれた。
神の眼は、二つのソーディアンが加わったことによって、力が爆発し始める。
「はや、く……にげて、……みんな……っ」
多分、シャルティエさんを抜くことはできないと思う。
折角、歴史を元に戻せるというのに、私のせいで台無しにしたくない。
そこでジューダスがはっとしたように私の名前を呼ぶ。
だけど、私はなおも逃げてと言葉を掛けるだけ。
ああ、ジューダスはやっぱりとっても優しい人。
私は、ジューダスを好きで良かった。
「……あり、が……とうっ……」