眼差し
アリアは報告をしてくる皆と離れて、与えられた部屋に戻る。
疲れはピークに達しており、倒れこむようにベッドに横たわる。
アリアはまた話すことが出来なくなっていた。
今まで黙り込んでいたユリアラがここでやっとのことで言葉を発した。
声は、直接頭に響いてくるかのような声で、実物の彼とはまた違う親近感がある。
『アリア…何か企んでいるのか?』
ベッドにうつ伏せのまま頭を横に振り、違うと心で言葉を発する。
考えるとか、企むとか、彼女には難しいものだ。
だが、彼女はいっそう今日の出来事で覚悟が出来ていた。
あの時バルバトスはあの場ではアトワイトにのみ目を向けていたが、きっとエルレインの事もあるんだろうアリアにも鋭い眼差しを向けていた。
獲物を逃がすまいとする、獰猛な肉食動物のように。
その姿を見てアリアはどこかまたエルレインと出会う可能性があると感じていた。
ユリアラはそんなアリアがたくましくなったのではと感じている。
どこで何があったとか、どういう出来事があったかなんて聞きもしなければ知らないフリをしてアリアの傍で共に戦うことを願っていた。
『アリア……僕はな、いつも誰かを失ってばっかりなんだよ。それはいつも目の前だった。だから、もう失いたくないんだよ。』
「……。」
アリアはただユリアラの光るコアクリスタルを見つめていた。
話せないのもある、だがユリアラには伝わっていた。
『うん…今はアリア、お前が居るから僕は幸せだ…。だから、守らせて。お前を……お前の未来も…これからも、今の状況みたいに時間移動や、世界を越えても…。なんでもだ。僕はアリアを守ってやる。』
ユリアラの言葉にアリアは口の形だけでありがとうと、そして大好きという言葉を表した。
どれだけ出会った期間が短くても、その短い時間でも二人の絆は強くなっていた。
アリアはユリアラを、ユリアラはアリアを。
『アリア、そろそろ寝たほうがいい。今日は疲れただろうからな……。』
優しく言葉を掛ければアリアは頷いてそのままベッドの中に入って、数分後ぐらいに寝息が聞こえてきて、相当疲れていたというのがユリアラでも分かっていた。
コアクリスタルを閉じることなく、ユリアラは考えた。
きっとこういう事態に陥ってから、ディムロスはわざとらしいくらいに心配になっているだろう。
行動ではどうということではないかもしれない、だけど彼は彼らしく、任務や多くの人がと優先しさせている。
昔から、ディムロスはそういう奴だと、理解していた。
眠るアリアは穏やかそのもので、今回はうなされている様子は見受けられないようでユリアラは安心していた。
船での出来事の後の、アリアの怯えたような、何かに追い回されたかのようにうなされていたアリアをみるのは辛く、見ていたくなかった事。
『アリア……もう、僕は誰も失わないって、誓ったんだ。だから…守らせてくれよ。お前を。』
そこに、もしも人としてのユリアラが居たとしたら優しく眠るアリアを見つめながら頭を撫でていただろう光景がうっすらと、浮かび上がる。