無に
ディムロスの剣を軽々と受け止めるバルバトスにディムロスは驚き、バルバトスに剣を受け止められたままで困惑を隠せずにいた。
それに気を良くしたかのような、分かっていたかのようににたりと笑みを浮かべて余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)と『こちらから行くぞ!』と力を込めた途端にディムロスは吹き飛ばされて崩れたものの上に投げ出されるように叩きつけられて倒れてしまう。
見た限りではほんの少ししか力は出していないように見え、見守るようにしていたカイルは小さな声で『やっぱり、強い…!』とこぼしていた。
アリアはその言葉に不思議と震えて、前に飛び出しかけそうになる。
それは先ほどまでの恐怖からではなく、助けたいという思いからきているかは本人にしか分からない。
「せめて最後は楽しませてくれ。…そう、断末魔の叫びをな。少しずつ切り刻んでやろう。…まずは、右足から!!」
バルバトスはもう自分の世界に入り込んでいるようで自身よりだいぶ大きい斧を振り上げて振り下ろそうとしたときアトワイトが大きな声でバルバトスを制止させると同時にアリアがバルバトスの前に立ちはだかる。
突然のことといつの間にか傍にいたアリアがディムロスの前に移動していたことにジューダスだけではなくカイル達も驚いていた。
「あなたが殺されたのは、仲間を裏切り天上軍に寝返ろうとしたためでしょう!?だというのにおめおめと生き返り、こんな形で復讐を遂げようとするなんて……逆恨み以外の何物でもないわ!」
アトワイトははっきりとそう話し出す。
堂々と、怯むことなくバルバトスの背中に言葉を浴びせる。
「もし、あなたに軍人としての誇りが少しでも残っているのなら、いますぐ剣を収めて退きなさい!」
アトワイトの言葉に今にも殺しにかかろうとした表情は消えて目の前でディムロスを守るようにしているアリアにギラリとした目を向けた後斧を下ろし、アトワイトに振り向く。
「…いつもそうだ。アトワイト、お前はなぜ命をはってまで、この男をかばう?いっそ俺の女になれ。そうすれば何もかも手に入る。力も、金も、永遠の名声さえも!」
一歩、また一歩とアトワイトに近づくバルバトスだが、後ろに下がることなく、凛々しく、強い眼差しでバルバトスを見るアトワイトはきっと同姓から見てもそれはカッコいいと思えるほどだった。
「や、やめろバルバトス!彼女には……アトワイトには手を出すな……!!」
「まだ、そんなふざけたことを口をきく余裕があったか。この死にぞこないがッ…!」
斧を振り上げる動作をアリアは見逃さずディムロスの前で構えるが、それ以上は動かずに思案顔のあとさっきまでの怒り顔から一変して余裕な、にたりと笑みを浮かべた。
「……待てよ。フッ、あったぞ。貴様を最大限に苦しめる法が!」