あなたの傍に | ナノ
4話



「ここがモリュウ領か……」そう呟いたスタンの言葉を皆は聞きながらそれぞれに辺りを珍しそうに眺める。ルーティがぽつりとシデンと似ているとこぼす声を聞いて、皆から離れている場所にいたアリアはその様子を眺めていた。


『早速街の人に話を聞いてみろ』
「わかった」


 ゆっくりと眺める暇もなく、ディムロスの言葉にスタンは頷き、それぞれ街の人に話を聞こうと歩き出す。だが有力な情報が手に入らず、皆は落胆の表情を浮かべていた。その時不意にスタンは「そういえば」と言葉をこぼすと、皆が自然とスタンへと視線を向ける。
 それは後から着いて来ていたアリアが居ないという事だった。ルーティもそれに気づいたように周りを見渡し、用事を済ませにでも行ったんじゃないのかとスタンへの返事のように発した。フィリアもなんとなしに辺りを見渡す。


「放っておけ、居ない方がこちらのことに首を突っ込まれなくて済む。それよりさっさと行くぞ、こんなところで足止めを食らっている暇はないんだ」
「えー俺、アリアがリオンの事気になってるように見えたから……」
「まさかこいつにモテ期ってやつ!?」


 食いついてきたルーティの言葉にリオンは相手するのも面倒になったのか、背を向けて歩き出そうとした。後ろでは「気のせいかなぁ?」とか「美男子っていうのはどこでもフェロモン撒き散らすのね」等とまるで聞こえるような会話が繰り広げられる。その様子に参加していないのはマリーとフィリアだけだ。マリーに至ってはどこで買ってきたのか、何かを食べている。
『坊ちゃんがモテてるのは当然なんですけどね』と一人話しだしたシャルティエにリオンは小さくため息を吐いた。


「僕は女に興味などない。ましてやあの女だって――」
『坊ちゃん』
「……なんだ」
『坊ちゃんは、本当にアリアの事……疑っていますか? 深い意味はないんですけど。ただ……』


「ただ」そう言ったきりなかなか言葉の続きを言わないシャルティエに声をかけようとした時、ふと目の前に人だかりが出来ていることにリオンは気づき、シャルティエから目の前の様子に意識を持っていった。うまく前が見えないが、楽器を持つ人物がちらりと見える。今から誰かが歌おうというのだろう。
 リオンの後ろのスタンたちも気づいたように人だかりの先を皆が見ている。すると突如として歌いだす。見ていたリオンは腕を組み、眉間にしわを寄せ不機嫌全開だ。


「……」
『坊ちゃん……』
「……二度目は聞きたくはないな」
『あ、あはは……』


 不機嫌なリオンに気づいてかシャルティエは小さく感想を述べれば厳しい受け答えに苦笑いをこぼした。そしていつの間にやらスタンは目の前におり、歌い終わったのだろう拍手を送っていた。気づいているのかいないのか、歌っていた人物はお辞儀をしてから口を開く。


「ジョニーナンバースリー。『守り人のバラード』ご清聴、感謝するぜ」
「ナンバースリー……っていうことは、他に曲があるんですか?」
「ちょっとスタン! 明らかに怪しいわよっ」


 拍手を送ったあともっと聞いてみたいのか、スタンが声を掛けているときルーティの指摘が飛んでくる。警戒心丸出しのルーティはじっと腰に手を当てながら、歌っていた人物を見やった。勿論、スタンも相手もルーティの言葉を気にした様子はない。その後ろのマリーは怪しいと言われた人物の被り物に目を奪われ「ひらひら……可愛い」と小さく呟けば隣にいたフィリアは微苦笑を浮かべた。
 全員のそれぞれの反応と行動にリオンは小さくため息を吐いた。こんなところで無駄な時間を過ごしている暇はないのだが、これでは先に進めるかわからない。置いて行ってしまおうかと考えていたとき、シャルティエが小さく唸る。


『うーん……やっぱりあの方は……』
「シャル……? 知っているのか?」


 それに気づいたリオンはシャルティエに声を掛けるがそれはすぐに他の者の声によってかき消される。それはモリュウ兵達の声だった。だがその声が聞こえて来るや否や、歌っていた人物はそそくさとその場を去っていったがその様子を知る者は仲間の誰一人とていない。自然と集まっていた人々は兵の方を皆は見ておりスタン達も注目する。兵の一人は高らかに大きくその場にいる全員に聞こえるように声を張り上げた。


「恐れ多くもティベリウス王陛下が帰国にあたり、お言葉をくだされる!」
「今ティベリウスって……」
「ええ、シデン領でも耳にしましたわ」
「なら話は早いわ。港に行きましょ」


 頷いたスタンはすぐ後に皆が港へと向かっている中、歌っていた人物がいつの間にか居なくなっていた事に気づき、首を傾げた。ここに着いてからアリアと言い、先ほど歌っていた人物と言い、よく姿を見かけなくなってしまう。彼の歌をもっと聞きたいと思いながらも、アリアともっと話してみたいと思いながらも。しかしスタンは何か引っ掛かりを感じて腕を組んだ。偶然、というには些かタイミングが良い気がしなくもないからだ。


『おいスタン、何をしている。置いていかれるぞ』
「あ、ごめん!」
『……とりあえず今は目先のことに集中するんだ』


 何かを飲み込んだような様子のディムロスに少し引っかかりも覚えながらスタンは頷き、皆の後を追いかけ港へと向かった。やっと追いついた時には既に港は人でごった返しており、皆が居るところへ行くのに苦労してしまった。「やっと追いついたあ」と一息ついていたらルーティに遅いと怒られてしまう。頭に手をやりながら謝ればリオンの言葉で二人はティベリウスが現れるであろう方向を向く。兵を数人とを連れて現れた人物にルーティは小さく文句を垂れた。
 皆はそれぞれに思う所があるのか、それともいつ話し出すのかと口を噤んだままティベリウスを皆は見ていた。その時マリーは「ん?」と不意に声を零した。気づいたのは傍にいたリオンとルーティだ。どうかしたのかとルーティが聞くとある一点を指し示す。そこにはいつの間にか姿を消していたアリアがティベリウスの方を静かに見つめているではないか。


「あの子あんな所に」
「きっと同じようにここにやって来たんだ」
「……」


 リオンも同じようにじっと見ていればモリュウ兵の声が掛かり、あたりが徐々に静寂に包まれると同時にティベリウスの方へと一斉に視線が集まりだす。ティベリウスも頷き、人々の方へと高台ギリギリまで歩み、両腕を広げた。


「モリュウの民よ、まもなくだ! まもなく、アクアヴェイルは統一される! いよいよ実行に移せる。この時を待ちわびていた……」


 ぐっと今までの成果をここで発揮できるといった演説は民たちは静かに聞いている。そしてこれを言いたかったと、声高らかに話す。


「宿敵セインガルドと属国フィッツガルドを討ち果たさん!」

「何……?」


 セインガルドの名が入っていることにリオンは怪訝な表情を浮かべた。もしかしなくても、この世界の頂点となろうと言うのだろうか。しかしもしここに神の眼があるのであれば、それは可能となる。リオンはティベリウスの言葉に腕を組みじっと言葉の続きを待っているとき、視線がかち合った。途端にティベリウスは先程までとは違う表情に豹変した。するとリオンを指差し、叫んだ。


「貴様の持っている剣、それはなんだ!」
「は……──?」
「我が国の宝剣ではないか! まさか貴様──!」


 ティベリウスの口からリオンの名が発せられると同時に、視界の端でアリアが動き出したのをリオンは気づきティベリウスから視線を逸らす。するとルーティの逃げようという言葉とティベリウスの指示が同時に発せられる。しかしリオンはすぐにアリアを見失い、スタンを先頭に皆は走り出す。


「まさか顔が割れていたとは」
「ここにまでグレバムの手が回っていたなんて……!」
「とにかく捕まったら大変だ! 早く隠れられるところを探さないと!」

 スタンの言葉にそれぞれ頷き、道を果てしなく走る。しかしここは余所の地。彼らには不利となってしまう。進んだ先に兵が居れば来た道を少し戻る始末だ。やっとの事で兵を撒けたが遠くから兵の声が聞こえてくる。と、その時だ。


「皆さん!」


 そう声を掛けられ、皆がそちらへ向けばアリアと歌っていた人物が落ち着き払った様子で近くへ走ってくる。危機的状況な今、詳細は不要と伝わったのかスタン達も駆け寄ってくる。アリアはその人物と目配せし、そしてスタン達に向き直り自分たちについてくるように話す。勿論スタンは二人が知り合いなのかと聞きたいと空気でわかるが今はそれどころではない。


「話は後だ。追っ手が来る。黙って俺たちについて来れば大丈夫さ。さあこっちだ!」
「疲れているかと思いますが……あと少しです!」


 アリアは皆へそう声を掛けながらもフ視線はフィリアへと向けていた。きっと理解してのことだろう。フィリアもアリアの言葉にあとひと踏ん張りだと力なくも頷いた。先に走り出した彼の後を追おうと背を向けたアリアにスタンは聞きたくて仕方ないのか、走りながら知り合いなのかと聞くがスタンに視線を向けただけで答えることはなかった。




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