目が覚めたら、いなかった。隣に。アイツが。


「ん……、……ん?」


 身体が大きな家主のための、広々とした、しかし二人で眠るには少々手狭なセミダブルベッド。目を瞑ったまま傍らを探る手がことごとく空振って、青峰は目を開けた。
 枕を抱いたうつ伏せ寝から肘をついて上半身を起こす。遮光カーテンはすでに開けられていて、白いレースのカーテン越しに柔らかな光が部屋に射し込んでいた。眩しさに細めた目で時計を見る。10時15分。猫のように伸びをして、ベッドから降りた。
 引き出しから自分用の下着を引っ張り出し、昨日脱ぎ散らかした服を一式拾い上げてシャワーへ向かった。



「火神。火神ー?」


 がしがしと乱暴に頭を拭きつつ入ったリビングにも、キッチンにも、火神の姿はどこにもなかった。口を噤んで耳をすませても外を走る車の音やクラクションが聞こえるばかりで、家の中からは何の音もしない。
 どこ行ったんだ、アイツ。何となくムッとして唇を尖らせながらも、とりあえずは喉の渇きを癒すのを優先することにした。
 勝手知ったる人の家。
 綺麗に整理整頓された冷蔵庫から取り出した500mlのミネラルウォーターに直接口をつけ、一気に飲み干す。
 一息ついて、そこでやっと、青峰はテーブルの上の書き置きに気がついた。

 曰く、こうだ。


『おはよう。
 ちょっと買い出し行ってくる。
 朝メシは冷ぞうこの中。あっためて食え。

 P.S.食い終わったら皿を水につけておくこと!』


「……」


 ふうん、と思うのと同じくらい、「起こせよ!」理不尽な思いが湧き上がって、青峰は目を眇めた。起こされたら起こされたで「休みなんだからもっと寝かせろ!」と思うに違いないのだが、それはそれ、これはこれ。
 ちっ、と小さく舌を打って、鈍い動作で冷蔵庫を開けた。さっきは気にも留めなかったが、なるほどたしかに入っている。目についた皿を次々引っ張り出した。ハムチーズのサンドイッチ、トマトとレタスのサラダ、ソーセージ。
 一番奥まったところに押し込まれていたチーズオムレツの皿を手に、青峰は固まった。
 恋人の料理の腕前を証明する、ふわふわ金色のオムレツだ。その上の赤いケチャップ、かかれているのは。
 これ以上なく丁寧にその皿を置いて、青峰は足早に寝室へと戻った。ベッドサイドへ置き去りの携帯を手にベッドに腰掛け、短縮一番。


『……何だよ』


 不機嫌にすら聞こえるぶっきらぼうな声も、照れ隠しだと分かっているから全く気にはならない。
 自分が浮かべる表情も声に滲むものも欠片も自覚しないまま、青峰は口を開いた。


「俺も――」


End.
(どんな顔して言ってんの@130131//title by BALDWIN)
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