ピリッと嫌な痛みが走って、俺は咄嗟に唇を押さえた。下唇のやや右側。離した指先にはかすかに赤いものがついている。 唇、切れちまった。 顔をしかめて呟いたセリフに振り返った青峰は、みるみるうちに表情を変えた。
「……おい、火神ィ」
不機嫌丸出しの声で呼ばれたと思ったら、次の瞬間には胸倉をねじ上げられていた。 あまりにも唐突なそれに理解の追いつかない俺を嘲笑うような追撃。青峰がもたらしたのはキスなんて可愛らしいモンじゃない、生々しい愛撫だった。 繰り返し吸われ、嬲られ、なぞられ、噛まれる。 このまま食われたらどうしよう。心構えの一つも出来ていなかった俺はただ一方的に翻弄されるきりで、情けなくもたちまち息が上がってしまう。せめてもの抵抗に青峰の胸を叩いた手も次第に力を失い、今では縋りつくのと変わらない有り様だ。 特に何が気に入らねぇのか、尖らせた舌先で執拗に傷口を抉ってくるから、その度に背筋を走るぞくぞくしたものは快感なんかじゃないのだと必死で言い聞かせた。
「っぅ、ん、ぷ、ァ……、ハ、ハ……ァ……」 「なぁ。これから先、唇切れるたびに俺にチューされんのとキチンとリップクリームつけるの、どっちがいい?」
俺の好きなお前のパーツを勝手に荒らしてんじゃねーよ、と言い放つ青峰は俺様の使いどころを間違えてる気がするのだが。
「……リップクリームつけます」
あ、今舌打ちしただろ、テメェ。
----- 無頓着火神くんと何だかんだ理由をつけてキスしたいだけの青峰。
2013/03/02 23:11
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