浦島パロ



「ふわぁー…ねむ」

「うわぁあぁあん!」

「…あ?」


魚を釣りに浜辺に来たら泣き叫ぶ声が聞こえる


なんだ?

うるっせーな


半ば苛立ちながらそちらに視線をやると、ガキ数人と亀がいた


「この亀白髪(しらが)だぜ!」

「ババァだ、ババァ!」

「違わい!白髪(はくはつ)だい!」

「黙れ!」

「うわぁあぁあん!助けてェエ!!」




「…………」


正直、関わりたくない


とは思っても、あそこはなかなか良い魚が釣れるのだ(酒と交換出来るくらいの)

仕方なくあの可哀相な亀を助けてやろうと近づく


「おい」

「あ?なんだよー」

「邪魔だ、うせろ」

「うるさいな!こっちは忙しいんだよ!」

「おら!」

「ぴぎゃぁぁあ!!」


あ、亀ひっくり返された

…じゃなくて


ムカつくな、こいつら


ふん!と鼻を鳴らし、再び亀を虐め始めた

ガキどもの態度にビキ!と音をたてて青筋が額に浮き上がるのがわかった


殺してェ

…いや、相手はガキだしな


我慢…


「あ、そうだ」

「…あ?」

「この亀、有り金全部で買ってくれたらいいぜ?」


ビキッ!!


「えー!こんな奴の金なんか期待できねー!」

「確かになー!」

「はっはっはー!」


ブチィイ!!





「ブッ殺す……!!」


「「「ヒッ…!」」」







――――……



「いやー、どうもありがとうございましたー」

「あ?気にすんな」

「あははー、ついでに起こしてくれると嬉しいんですが」


堪忍袋の緒が切れた、とはまさにこのことだ

ガキどもの態度にぶちギレたおれは、周りの知人に"魔獣"だの"鬼"だの言われる顔をさらに恐くし(憶測)一歩近付いた

そしたらあいつらは、顔を真っ青にし一目散に逃げだしたのだ(ケッ!)


「起こしてくださいー」

「もう捕まるなよ」

「あのー」

「じゃあ、おれはこれで」

「助けてー!」

「………冗談だよ」


ちっこい手足をばたつかせながらアピールする亀にほほえましさを感じる(さっきの奴らとえらい違いだな)

くるっ、と起こしてやると亀は立ち上がりお辞儀をした


「ホントにありがとうございました!えっと…な、なにかお礼をしたいんですが……」

「お礼?」

「はい…あ!」

「ん?」


考え込んでいた亀は何か閃いたらしく、ぱっ!とこちらに笑顔を向けた


…ちょっ、今のもう一回


「釣竿貸してください!」

「これ、か?」

「はい!」


おれの生活用具である釣竿を手渡すと、それを器用に両手で掴み海に糸を垂らした

それだけでも驚きなのだが


「えんやこらさー!」

「…掛け声?」


変だな、それ

……じゃなくて!


「た、鯛!?」


まじかよ!え、うそだろ!?


信じられない現状に目を丸くしてると、誇らしげに亀が踏ん反り返っていた


「えへへー!釣りに関してこの私に不可能はないのです!」

「…………」


ちょ…なんだよ、この生き物

さっきといい、今といい…


………不覚にもときめいてしまった


「だぁーーっ!!チクショウッ!!」

「!!」


突然頭を抱えながらしゃがみ込み叫ぶおれに亀が驚く(わりぃ)

しかし、そんなことを気遣っている余裕はない

自分の中に浮かんできた感情を力の限り否定していく


……これはあれだ、こんなちっこくて、釣りが上手い未知の生物だからだ


「え、えーっと…よくわかりませんが……それでは」

「………!」


『それでは』?

そりゃあ、まさか『さよなら』ってことか?


……………


「また会えるといいで「ダメだ」……え?」

「お前は保護する」

「………………え?」


…そうだ、こりゃああれだ

"興味"だ


奇っ怪なこの生き物におれは興味があるんだ



だから


「保護、する」

「う、えぇえぇぇえ!?」





あれ、竜宮城は?



(こ、この状況はなに!?)

(さて、この鯛で良い酒でも貰うか)