ナナシは可愛い。仲間の贔屓目で見なくたってそれは事実であるとマルコは確信していた。それゆえにマルコが苦労した事は数知れず、しかし年の差と周りの目が気になって彼はナナシに自分の正直な気持ちを伝える事は出来なかった。けれどある出来事がきっかけでマルコは自分の想いを伝える事ができ、ナナシも同じ気持ちを持っている事を知り、晴れて二人は仲間達の間で公認のカップルとなった。

「ナナシ、どんくせぇなー。ほら、持ってやるから貸せって」
「あう……。すみません、エースさん」

けれどカップルとなったところでマルコの苦労や悩みは無くならない。天然なナナシはどんくさくもあり、仲間達からよくちょっかいをかけられていた。今もそうだ。甲板でナナシは大きな荷物をぶちまけて、たまたま近くにいたエースに助けられていた。へにゃりと笑いながらも嬉しそうにエースの手を取るナナシにマルコは表情がひきつるのを感じた。

「ははっ!男の嫉妬は見苦しいだけだぜ、マルコ」

そんなマルコの様子を見ていたサッチはにやにやと笑いながらそう言ってマルコの肩を叩く。普段はポーカーフェイスなマルコもナナシの事となるとそれは僅かに崩れてしまい、これがサッチの笑いを誘うものとなった。するとマルコは思いっきり表情をしかめ、サッチを睨み付けた。

「うるせぇよい」
「んな怖い顔しなくたって、ナナシはお前にベタ惚れだから大丈夫だって」

茶化すように笑いながら言ったサッチにマルコは殺意を覚え、グッと拳を握った。しかしサッチは抜け目なくそれに気づき、慌ててマルコから距離をとった。ムカつくからって俺に当たるなよ、とサッチは未だににやにやと笑っていて、マルコは本気で彼を殴ろうとした。けれどその時ナナシの楽しそうに笑う声が聞こえてきて、マルコの動きは止まった。

「エースさん、大丈夫ですか?」
「んあ?あー、寝てた」
「私と立ったまま話してたのに、しかも荷物を持ったままなのに寝れるなんて器用ですよね」

ガクンと急に寝てしまったエースにナナシはくすくすと笑う。それが何だか腹立たしかったマルコは、なるべくポーカーフェイスを心がけて二人に近づいた。ちょうどナナシはマルコに背を向けたので彼の接近には気づかない。しかしさすがにエースは気づき、マルコの表情を見るとにかっと笑った。それからナナシが運ぼうとしていた荷物を持ち直すと、じゃあなとナナシに声をかけて立ち去った。今まで話していたエースがいきなり立ち去ったのでナナシは不思議そうに首を傾げる。そんなナナシにマルコは真後ろから声をかけた。

「ナナシ」
「ひゃっ!?マ、マルコさん!びっくりさせないでくださいよ」
「悪かったよい」

悪いとなど全く思っていない表情でマルコはそう言ってのける。鈍感なナナシといえどさすがにそれには気づき、誠意が見えませんと少しむくれたように呟く。そんなナナシがやっぱり愛しくて、マルコは忍び笑いをもらす。ナナシと二人で話していると先ほどまで感じていたエースへの嫉妬心など消えてしまう。けれどナナシはそのマルコの態度が許せなかったのか、プイとそっぽを向いてしまった。

「もう、マルコさんは意地悪です!」
「ナナシ、そんなに怒るなよい」
「怒りますー!だってマルコさん、いっつも私を見て笑うんですから」

明らかにむくれてしまったナナシにマルコは眉尻を下げた。本当に怒らせる気はなかったのだがどうやら彼女にとっては怒るに値する事だったらしい。しかしこんな彼女もやはり可愛いと思ってしまうマルコは、やはりナナシにベタ惚れなのであろう。相変わらずそっぽを向いたままのナナシの腰に手を回し、強引に自分の方を向かせると驚きの色を露にするナナシの瞳が自分を映した。

「マルコさん?」
「ナナシが可愛いからついちょっかいをかけたくなるんだい」
「っ……、そ、その手にはのりませんからね!」

目の前にいるマルコが真剣な表情を浮かべて言うのだが、今日のナナシは流されないぞというように顔をそむけた。しかしその耳は真っ赤に染まっていて、マルコは笑いを噛み殺した。ナナシは恋愛とかそういったものに疎い。ゆえにマルコの言葉や態度ですぐに真っ赤になってしまうのだ。可愛い奴だよい、と内心でマルコは呟く。そしてその真っ赤な耳に顔を近づけると、優しくそこに口づけてから低い声で囁いた。

「ナナシ、愛してるよい」

ふわぁっ、とナナシは声をあげた。耳はこれ以上無いくらい真っ赤になっている。くつくつと笑ったマルコは、こっち向けよいとナナシに言う。するとナナシは恐る恐るというようにマルコの方へ顔を向けた。その顔は耳と同じように真っ赤である。恥ずかしそうに視線をあげたナナシは、マルコと視線が合うと小さな声で呟いた。

「マルコさんはずるいです。いっつも私ばかりが振り回されて……」
「そんな事ねぇよい。俺の方こそ、お前に振り回されてんだい」

マルコが本心を告げるとナナシは不思議そうにぱちぱちと目を瞬かせた。マルコの感じている嫉妬など、鈍感なナナシが気づいているはずがないのだ。それがマルコの悩みであり、けれどそんな彼女だからこそ惚れたのであった。

「エースと随分仲良さそうにしてたじゃないかい」
「エースさん、ですか?あれは私の荷物を持っていただいたんですよ」
「わかってるよい。ただそれでも、俺は嫉妬しちまうんだい。……大人の余裕なんて言ってられないくらいに、な」

マルコは本気であった。ナナシよりもマルコはかなり年上だ。だから、とはいうわけでもないかもしれないが普段はマルコが一枚上手だ。年上だから経験豊富なんですね、とナナシはいつも言う。マルコはそれを否定しない。けれどナナシを相手にするとマルコは時々余裕なんてなくなりそうになるのだ。しかしナナシは気づかない。現に今もマルコの言葉が理解できなくて首を傾げた。そして自分なりの解釈を口にした。

「とりあえずマルコさんが私を愛してくれてるって事ですか?」
「ああ、それは間違いないよい」
「ふふっ、私も大好きです。いえ……愛しています、マルコさん」

ナナシの解釈はどこかずれていた。けれど間違いではないので頷くとナナシは嬉しそうに笑ってそう言った。その後恥ずかしそうに体を離そうとするのだが、マルコは未だにナナシの腰に手を回していて離さない。そんな可愛い事を言われて離せるか、と。そう口にしたマルコはあわあわと慌てるナナシの唇にとても優しく口づけた。


年上の余裕なんて
(ほんとベタ惚れだな、お互いに)(サッチ、覗きがバレたらまた殴られるぞー)(大丈夫だって。あいつら自分らの世界に入り込んでるから―――)(……またお前らかい)((げっ))




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風花様宅で77777HITをゲット。
私のわがままに応えてくれて、マルコ夢の、そしてシリーズ物の番外編をいただいちゃいました!
とってもうはうはです。

素敵作品ありがとうございました!