「はぁっ‥‥はぁっ‥‥」

荒くなる息、激しく上下する胸

(苦しい‥‥)

そろそろ冬本番ですよーっていう季節
11月の今日この頃

私は校庭を走っていた

この時期に必ずやってくる悪魔。
人はそれを持久走と呼ぶ。

元は忍者を育成するための学園だったとかで、この学園の走る距離は半端じゃない

男子8000m、女子5000mというバカげた距離

女子は校庭を25周するか、学園内を5周するか、どっちにしても距離は同じだが、学園内を走る場合は足場が悪い。
起伏はもちろん、固いコンクリートから、柔らかい芝生の上までぐるぐる走る。

その分、評価は高いけど。

でも、体育の成績が8以上じゃないと、そっちのコースを走ることは許可されない。
それほどに厳しいコースなのである。

無論、体育の成績の成績3以上とったことない私は校庭の方を走るわけで。

「よし、ナナシ!あと3週だ!!」

先生の励ましが耳に響く

その声を聞いて、あと3周と思うか、まだ3周もあるのかと思うか。
それは個々のモチベーションだと思う。
言うまでもなく私は後者だ。

あー
もうこれはいじめではないだろうかと思えてきた‥‥

もう走り終えた人達がこっちを見ている
別に、遅いのを笑っているわけじゃないし‥‥むしろ応援してくれてるんだけど

(恥ずかしいなぁ‥‥)

ちらり、と
男子の集まりに目を向ける

(あ、やっぱり‥‥)

見てるなぁ

(‥‥‥次屋くん‥‥)

男子のコースをいち早く走りきって来た次屋くん
こういうところで、体育委員会はすごくきついんだってことがわかる。

それに比べて‥‥
一人校庭を走る私‥‥

リタイアしちゃおうかな

『リタイア』途中放棄だ

残り3週なのに、勿体無い!!

って思う人も居ると思うけど‥‥
私の状況も見て考えてほしい。

校庭のトラックに独り
足取りもよろよろで走ってる
みんな見てる

どうよコレ?
まだ走れる?走れますか?
走れないでしょ?

もう諦めて、歩幅が狭まりそうになった

瞬間だった、





「ナナシ!!がんばれーー!!」





ギュッ、と
心臓を掴まれたように感じた

よく通る、少し低めの声


(次屋くん、だ‥‥)


一発でわかった
だって好きな声だから

私はさっきよりも頬を赤くして、トラックを走りきった

最後の3周だけマッハだよ。

「ナナシ‥‥?最後に無理してなかったか?大丈夫か?」

「だ、い、じょぶ‥‥です‥‥」

いや、死にます。

「じゃあ、ナナシは歩いて教室まで来いな。おーい!次屋!お前体育委員だろ?」

先生が大声で次屋くんのことを呼んだ

せ、せん、せ‥‥
心臓に悪いです‥‥やめて下さい

「ナナシと一緒に教室まで来てくれないか?こいつ最後に無理したみたいでな」

「はい、わかりました」

‥‥う‥‥‥‥うそ、でしょ‥‥?

「よろしくな」

そう言って、校庭に置き去りにされる
私と次屋くん

ど、どど、ど‥‥どうしましょう!?
真横に居るよ!!隣だよ!!

えっと‥‥ヤバい
沈黙が‥‥っ

「ナナシ?」

「ふぁい!?」

いきなりの呼びかけにびくんと心臓がはねた

「辛いなら俺がおぶってやろーか?」

「いえっ!とんでもないです!私、重いですから!!」

「大丈夫だよ」

「次屋くん腕折れちゃいますよっ」

ぴく、と
次屋くんの眉が少し動いた

「ナナシ」

「はい?」

「ょいしょっ、と」

「っひゃ!?」

え?次屋くん‥‥?
今、何しました?
いや?え?

この体制は‥‥

「軽いじゃん」

「ぉ、ぉ、おろ、お‥‥」

「?」

「下ろしてくださーーーい!!」

お姫様抱っこじゃないですか!!

「やだ。下ろさない」

次屋くんはにやりと笑って、私の顔に自分の顔を近づけて

「腕、折れるわけねぇじゃん。俺、体育委員だもん」

得意気ににこっと笑った

「あ、ぅあ、ぁ」

「?」

近い!!次屋くんの顔がめちゃくちゃ近い!!
笑った!!すごい嬉しいっ!!やっぱり整っててかっこいいなぁ‥‥じゃ、なくてっっ!!!!

「ぁ、あの、その‥‥っ」

「ん〜?」

慌てて上手く言葉を繋げない私を抱いたまま、すたすたと保健室に向かう次屋くん

「私っ、走ったばっかで、その‥‥」

私も一応、女の子です

だから、好きな人の前だと‥‥やっぱり

気になる‥‥

「汗、かいてるから‥‥っ」

私の身体、いま絶対に汗臭いって‥‥

次屋くん‥‥わかっちゃうよねー‥‥

ぁうー‥‥恥ずかしい‥‥

「かいてるから何なの?」

「‥‥へ‥‥?」

「そんだけ汗かいてんの、ナナシが頑張った証拠だろ?」

「ふぇ‥‥?」

「すごいよ。お前」

ほめて、くれたの?

こんなに鈍足の私を‥‥?


違うよ。

私が頑張れたのは‥‥

「ゎ、私が、走れたのは‥‥次屋くんのおかげ、だよ」

「俺?」

そう。

あの時、

「‥‥最後、がんばれって言ってくれて‥‥それで‥‥」

「俺、何もしてないよ」

「ううん。次屋くんのおかげなの。」

あれが無かったら、私はきっとリタイアしていたから

だから

「次屋くん、ありがとうっ」

「‥‥どーいたしまして。//」

あれ?

次屋くんも顔が赤い‥‥??

どうしたのかな?


「‥‥あの、えと、話戻すけどっ」

「ん?」

「私、汗、かいてるから‥‥その、臭う‥‥というか‥‥」

途切れ途切れやっとそれだけ伝えると、あろうことか次屋くんは私の髪に鼻を近付けてきた

「っ!?」

「ナナシ、甘い良い匂いがする。俺、この匂い好きだよ」



『好きだよ』





その後の私が
保健室でゆっくり休めるわけもなかった。



【END】






 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
リア友から頂いた誕プレです!

タイトルなかったんで無題にしちゃいました。ごめんなさい

舞台が11月になって申し訳ない、と言われたんですがそんなのまったく気にならないくらいキュンキュンしました!

ふふふ、次屋いいよ次屋

ではでは、マイフレーンド!素敵作品ありがとうねっ!








おまけ☆

『次屋くん、ありがとうっ』



‥‥やっべー‥‥

「ちょー可愛い」

「どうした?次屋?何か言ったか?」

「いや、なんでもねー」

「お前らぁあぁ!!学食はそっちじゃねぇえぇ!!!!」

【To be continued?】