苺のショートケーキ


この甘いもので喜ぶ奴は二人ぐらいだろう

一人はエース(甘い甘くないに関わらず、だが)


あと一人は


「サッチーちょうだい!」

「おう、手洗ってきたか?」

「うん!」


白ひげ海賊団、みんなの姫さん(通称、おチビ)


洗った綺麗な手にケーキを渡してやる

おチビはそれを受け取ると地べたに座って食べ始めたが、いつものことなので気にしない


「おいしー!」

「かっかっか!このサッチ様特製ケーキがマズイわけないっつーの!」

「つーの!」


ああ、本当かわいいぜ


おチビの笑顔には敵わない(胸キュンだ!)(…おい誰だ、今キモいっつった奴)

こいつの笑った顔見るたび、ケーキ作れてよかったと思う


今日もこの笑顔を独り占めしたこと自慢すっかなー


なんてこと思いながら、上機嫌で鼻歌を歌っていたらパイナップルの影がフッとかかった(こ、このシルエットは)


「よぉ、甘ったるいもん食ってんなぁ」

「マルコも食べる?」

「いや、いらねぇよい」



「……………」


来やがったな、ナポー

おれの至福の一時を邪魔しに


こちらの存在をまるっきり無視し、おチビとじゃれ合っているマルコにいらついたおれは、力強く突き飛す

おチビと和んでいたマルコは簡単に倒れた(ハッ!ざまぁ)


「…っに、すんだよい」

「べっつにー?あれ?マルコそこいたの?」

「…ぶっ殺す」

「…ぶっ殺し返す」


マルコは手を青くし、おれは刀に手をかける

そんなことで、と思うだろうがおチビのことになるとみんながマジだ









「だ、めー!」

「「!」」

「喧嘩だめ!仲良くしなきゃだめ!」

「わ、わかったからフォーク振り回すな」

「クリームが飛ぶよい」


両手をばたつかせながら怒るおチビ

おチビには笑っていてもらいたいおれらにとって、大人しくなるにはこれで十分だ


「仲良し?」

「あぁ、仲良しだ!」

「そうだよい」


お互い頬を引き攣らせながら腕を組む

勿論ばれないように抓り合いをすることも忘れずに


その様子に満足したおチビは再び笑顔になり、ケーキを一口分突き出してきた


「ご褒美!」

「「え」」

「あーん」


まさかのご褒美タイム

おチビの行動に戸惑うマルコとおれ




………な、わけはなく


「おチビー、あーん」

「あ!てめっ!」

「サッチ、あーん」


喜んで飛び付いた

マルコよりも素早く動いたおれの口に広がる甘さ

マルコが横で文句を言ってるがそんなこと知ったこっちゃねぇ(サッチ…)(んだよ、マルコもしてもらえるって)(お前のあとなんてイヤだい!)


「はい!マルコは甘いの嫌いだから特別にイチゴあげる!」

「!」

「マルコ、あーん」


赤い真ん丸の苺、おチビの大好物だ

それを特別に貰えるとわかったマルコは一瞬固まり、ゆっくり口を開いた


おチビの優しい心遣い


その苺を口に含もうとした、そのとき




「敵襲だーー!!」


ドゥンッ!!!


「「「!!」」」


揺れるモビーディック号

どうやら一発喰らったらしい


………いや、そんなことは問題じゃねぇ


問題は……


「!」

「イチゴ、落ちちゃった…」



「……………」


問題は、マルコだ


マルコが食べるはずだった苺が衝撃により、床に落っこちてしまったのだ


苺を見つめたまま、無言のマルコ


周りは他のクルーたちが戦闘準備をしていて騒がしいのに、おれら三人の周りだけ静か


ちなみにマルコは苺が死ぬほど好き、というわけじゃない

苺を食べたかったわけでもない



"おチビからの"苺が食べたかったんだ


だから今静かなマルコは、あれだ…嵐の前の静けさってやつだ






「…ふぇ」

「「!」」

「マルコにっ、マルコにあげるイチゴ…がっ……っう、ふぇ…うぇぇえん!!」


沈黙をやぶったのはおチビの響き渡る泣き声

それにより静まり返るクルーたち


マルコが青い炎を身に纏った


「どこぞの雑魚だか知らねぇが…いい度胸だよい

おれが貰うはずだった苺を落としたうえに、おチビを泣かせるたぁ…



てめぇらぁあ!!白ひげ全勢力を持ってブチ殺せェェエ!!」

「「「おぉ!!」」」

「直ぐには殺すなよい!ネチネチといたぶってから殺せェェエ!!」

「「「おぉぉおぉお!!!!」」」






「…おー」


ぶちギレたマルコとクルーたち

ある者は武器を振り回し、ある者は覇気を放ちながら敵船に乗り込んでいった

その様子を冷静に見守りながらおチビをあやすおれ


あー…うん、敵に同情する









"おチビを泣かせたら死刑(仲間の場合は半殺し)"


新しく加わったこの船のルール

みんながおチビを好きすぎるためにできたこのルールで、敵船を大分沈めた


おれもムカついてるが……ここでキレたら数少ないストッパーがいなくなる


それに


「うっ、うぇー…!」


泣きじゃくるおチビも守らなきゃだしな!


柔らかい髪を優しく撫でてやる


「大丈夫、大丈夫」

「サッチー…」

「今マルコたちが殺っつけにいってるからよ!」


よいしょ、と小さい体を抱き抱え、あいつらの姿を見せてやろうとした(マルコ、怒鳴り声ここまで聞こえてる…)











「グララララ…」

「!オヤジ」

「おやじぃー」

「チビ、また随分と泣いたなぁ」


突然奥からオヤジが出てきた

ナースを引き連れてきたオヤジは、やっぱり落ち着いている


流石にオヤジまでキレたら…





……………んっ?






……オ、オヤジ?その手の中の武器はまさか……?


嫌な予感しかしないおれは、タラーッと冷汗が垂れた


「安心しろ、今…






ぶち殺してやる」

「オヤジィィィイ!!!!」


見事当たった予感(嬉しくねェ!)

とりあえずおれはオヤジを止めるべく、腕を掴んだ


キレてる!世界最強の男がキレてる!!


よく見ると医療機具まで外して、マジモードだ


「グララララ!生きて帰れると思うなよ!アホンダラ共がァ!!」

「ちょっ!まっ!オヤジィイ!!あの船にクルー乗り込んでるから!仲間いるから!」

「気合いで避けろ」

「無理だからァァア!!

おいナース!なんでオヤジを止めなかった!!」

「チビちゃん泣かせたんですもの、仕方ないわ」

「ざっけんじゃねェ!!」

「ぬぅん!!」

「オヤジィィイ!!」

「ひぐっ…うえぇん…!」

「ああああ!泣くなおチビ!頼むから!」

「…グララララ!!もう一発だ!!」

「ストップゥゥウ!お願いだからちょいストップしてェエ!!」

「おやじかっこいー!」

「おチビ煽っちゃだめ!!」

「…ぬぅうん!!」

「イヤァァア!!」






…………全力で止めるが…まぁ、不可能な話だ


オヤジの能力で荒れる海(しかもおチビが褒めるからいつも以上に)





……どうやら数少ないどころか、ストッパーはおれだけのようだ


その後、敵はオヤジにより壊滅

船は見事にただの木片となった


ちなみに乗り込んでたクルーたちはなんとか全員生きていた(そしてマルコは返り血が…)(あ、いや…なんでもない)






泣き声の
破壊レベル



泣き声一つで、世界が滅びる




「マルコー!みんなー!お帰りー!」

「ただいまだよい」

「かっこよかったー」

「ふふっ、うれしいねい」







「………はぁ」


やっぱりおチビは笑っててくれなきゃな

おれと、世界のために




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企画.せのび様 提出

素敵企画に参加さしてもらいました。どうもありがとうございました!