〈ルーベルンス視点〉
羊をモチーフにした船が去って数十分
おれたちも出発しようとしているのだが
「ダメだダメだダメだダメだダメだ、ダメだァ!」
おれはダンさんと揉めていた
原因はおれらの海賊団の名前。それを今決めるかどうかで揉めている(もちろんおれは今決める派)
「うるっせぇーなぁ…んなの今決めなくたっていいだろうが」
「いや!決めなきゃ締まらねぇッスよ!な、メカ!カント!」
「どっちでもいい」
「おれは名前より塗装で忙しいんだよ!」
くっ…なんて冷めた奴らだ
おれらが今後どうよばれるかは、この名前で決まるんだぞ!?
そう訴えてもどうでもいいと言った風に返事するみんなを睨む
メカの方は奪った海軍船のデザインを変えようと筆を握っているのでまだいい。しかしカントは茶のおかわりをしているし、ダンさんはダンさんでタバコを一箱開けてしまった
だんだんマジメに考えている自分が馬鹿みたいに思えてきて涙が込み上げてくる
しくしくしくと両手で顔を覆いながら泣き真似をしていると、今までどこにいたのか…希望の光でもあるマイルさんがこちらに歩いてきてた
このときおれはいつもの優しい笑顔が仏のように見えた気がする(だってよ、後光が見えるんだぜ!?)
「マイルさぁぁぁぁあん!!」
「うわっ!び、ビックリしたぁ…鼻水垂らしてどうしたのさ」
え?鼻水垂れてんの?マジか、やべぇやべぇ
…じゃなくって!
「それが聞いてくださいよ!みんな海賊団の名前決めずに船を出そうって言うんスよ!?」
「あ゛ーもう、うるっせぇな!だったらテメェで決めろ!」
「ほら冷めてる!あんたら名前の重要性わかってねぇでしょ!?」
「んなもん知るか」と吐き捨てて、マッチを擦るダンさん。長年の勘から、そろそろ彼がキレそうなのがわかった
まだ不満は残っているが、名前を決めていいというお許しが出たのでさっそく考える
騒いでてあれだけど…まだ何も考えてなかったんだよなぁ
うーん、と唸っていると肩を二回ほど叩かれた。振り返るとそこには、輝かしい笑顔をこちらに向けているマイルさんが
…な、なんスかその顔は
「あのね、名前ならおれ一つ案があるんだけど…」
「え、あ、はぁ…どんな名前ッスか」
ふふふ、と弧を描く口。そこから発せられた言葉は
「キャロット海賊団」
「ブフッ!!」
「ぬぁっちぃ!!」
………発せられた言葉は、ダンさんが吹き出すには十分過ぎる威力を持っていた
しかもそれにより、吹き出ていったタバコが茶をすすっていたカントのデコに当たるという二次災害までもが起こる(ス、スゲェ声が出たな…)
額を押さえうずくまるカントの背中を擦りながら、ダンさんは今なお笑顔のマイルさんに怒鳴る
「んだよキャロットって!おれらとの関連性はなんだ!」
「なに?文句あるの?任せたのはそっちじゃんか。てか、カントにしっかり謝りなさい」
「あ、あぁ…!すまねぇ、カントッ」
………なんか、おれとメカんときと大分対応違くねぇ?差別じゃん、ひいきじゃん
これが日頃の行いのせいだと言うのなら、おれも言わしてもらおう
あいつも…カントもいろいろやらかしてますからね!
「で、どう?」
「…はいっ?」
「おれの案はこれなんだけど……嫌だったら他のでもいいよ。決定権はルーにあるわけだし」
変わず向けられる笑顔には威圧的なものは含まれておらず、本当におれが決めてもいいようだ
ファンシーというか、なんというか…とりあえずこの名前にするつもりはなかったが、どうしてこんなを考えたか気になり聞いてみると
「いや、ね…好きになってくれるかなぁって思ってさ」
「好きに?誰が?何を?」
「アルトが、ニンジンを」
「はっ?」
文字通り目が点になってしまった
ここで何故アルトの名前が出てくるのか、そして何故アルトのニンジン嫌いが治るのかが全くわからない
固まるおれにマイルさんは更に説明をしてくれた
「アルトはニンジンが嫌いでしょ?」
「食べてはいますが、いつも泣きそうな顔してますね」
「んで、おれらがアルトのことを好きなように、アルトもおれらのことが好きだ」
「ん、まぁ…そうッスね」
「で、そんな好きなおれら一味の名前がキャロットだったらアルトも少しはニンジンを好きになれるかなぁ、なんて思ってさ」
「ははぁー、考えるッスね……でも」
「あとね」
「まだあるんスか!?」
「うん、もう一つの理由はね……
アルトが嫌いなニンジンを食べる。嫌いだけどみんなの名前だから前より美味しく食べれる!ってなる
………つまり、」
「つまり?」
「その度にアルトがおれらのことを思い出してくれるってわけだ!」
「…………………」
「そんな理由でおれは"キャロット海賊団"がいいんだけど……どう?」
「………マイルさん」
「んっ?」
「採用ッス!!!!」
「やった!」
「ちょっと待てぇぇぇええい!!」
ニンジン+おれら
=思い出して!
(何採用してんだよ!)(だからぁ、ダンに拒否する権利はないって言ったでしょ!)(アルトー!おれを思い出してくれよォォオ!!)
(塗装終わったけど…これなんの騒ぎ?)(海賊団の名前決めだ)(ふーん、って…ッブハ!!カントっおま、なんだそりゃ!額にホクロ出来てんぞ!!ぶふふっ!)(………)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
こうして誕生、キャロット海賊団
いつでもあの子のことを第一に考える男共
|