×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
お煎餅は世界を救う



扉の前で体育座り。島から出航してしばらく、ただ一人を除いて皆が甲板に出ていた

いつもなら私もその輪に加わるが、今回はわいわい騒ぐ皆を遠目に眺めるだけ


手の中の丸いそれを

それとは、醤油煎餅


ナミさんから「貰ったけどいらないからあげるわ」と言われこちらに渡ってきたのだ


お煎餅はなかなか食べる機会がないので、既に一枚食べたあとだがもう一枚食べたくなる


…しかし、我慢ッ!


ふん!と鼻息を荒くし煎餅から視線を外した(そこまで気合いを入れなくてもいいって?)(…さてはお煎餅の美味しさを知らないね?)


食べないならどうするか……渡したい人がいるんですよ


その人を待つために体育座りをして数十分、閉まっていた扉が開いた(き、きた…!)





「…んっ?お前、んなところでなにしてんだ?」


出てきた人物とバチリ、と視線が合う。服の襟をパタパタしながら扇ぐゾロさんは扉を閉めて私の前に立った


「煎餅握りしめてなにしてんだよ」


なにもなかったように平然としているゾロさん、でも中で何をしていたから知っていたので


「……………痛くなかった?」

「あ?」


足、痛くなかった?


そう静かに呟いた。そしてゆっくり彼の足首を指差す。彼自ら傷をつけたそこは今、包帯でぐるぐる巻きになっている


私の質問に「またこいつは…」みたいな顔をされてしまった


確かに…確かに気にしすぎだとは思ってるけどさ!

でも心配なんだって!


普通に二本の足で立っているゾロさんだが…実はこの怪我、足首の半分くらいを切ってしまってるらしい

改めてあの時の彼の本気だった、ということを見せられた


…………って、今は落ち込んでる場合じゃない!!


「自分があのとき助けてたら…」と何回目だがわからない後悔を無理矢理遠くに飛ばし、外した視線をもう一度合わせ同じ台詞を繰り返した


「大丈夫だって言ったろ」

「でも、縫ったんでしょ?」

「あー…、まぁそうしねぇとくっつかねぇし」

「………………」


なんでそんなあたりまえのように言うんだ


キュッと下唇を噛み言葉を飲み込む。何を言ってもゾロさんは「気にすんな」としか言ってくれないだろう


……いや、でも無理っしょ

足切った上に足縫ってるんだよ?痛くないわけないじゃん


その証拠に彼の額にはうっすらと汗が浮かんでいる

「ごめんなさい」そう言いたくて口を開けたが、声を発する前に閉じた


もう私が謝っても無駄だろうし、逆に怒られるかもしれない

眉間にシワを寄せながらこちらを見下ろしてくる彼の目からもいい加減にしろ、と伝わってきた


謝ったら怒られる

でもそうしないと私の気が収まらない


…だったら





パキッ


「…………ん」

「……あ?」

「…あげるっ」


均等に割れなかったお煎餅。それの大きい方を差し出した

私の行動の意図がよくわからないゾロさんは、それを受け取りはするが食べようとはしない

そんな彼に向かって私はニッと笑って





「泣かなかった、ご褒美!」


そう言って自分の分のお煎餅を食べた


いやいやいや、ご褒美って……ゾロさん相手に何言ってんの私

…でもそう言わないと受け取ってくれなさそうだしなぁ


ご褒美、そう言って渡したがもちろん違う。お煎餅一枚に「ごめんなさい」の思いを込めて渡したのだ


自分の手の中のお煎餅と私を二三回交互に見たゾロさんは、ばりっと一口かじる


「………普通、丸々一枚渡すもんじゃねぇの?」

「……………!」


し、しまった!


心の奥底の「食べたい!」という気持ちが抑えきれなかったらしい

己の食欲を恨む(うぅ…美味しいんだもん、お煎餅)


動かしていた手と口の動きを止め、お煎餅をくわえたまま固まる

そんな私の横にゾロさんは腰を下ろした


「…まったく、気にしなくていいって言ってんのにずっと気にして」


…あ、あう…っ!すみま、せん……


「前にも言ったろ?仲間なんだから一々気にすんなって」

「…………」


………は、はい

言われた気がします…


「……つーか、逆におれが謝りてぇよ。無様に捕まっちまって悪い」

「!そんなこ、ふぐっ!?」





「次はもねぇようにすっから、これで許せよ」


口に突っ込まれた醤油煎餅

ニカッと笑い「お詫びな」と言ったゾロさんは、立ち上がり歩いていった

去り際にポンと叩かれた頭に触れながら、私はゆっくりと口を動かす(うん、おいし)





何て言うか、

その、

あの…



なんで、ゾロさんってこんなに……


「ふぁっほひぃ…」


…んだろうか


むぐぐ、と唸りながら温かい頬を自分の手で包んだ





ご褒美+お詫び

=お煎餅半分こ



(私じゃあのかっこよさは出ないね)(一生、)(……おぉう、自分で言って悲しくなってきちゃった)


(とりあえず、お煎餅食べよ)(…ぼりぼりぼりぼり、)