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ハッピーエンドとは程遠く



今日もいつものように起きる

リダムさんの親バカっぷりも、中々上手いマイルのコーヒーも、アルトの笑った顔も


いつも通り




………のはずだった


初めに見つけたのはアルト


「父ちゃんー」

「んー?」

「おっきー船があるー!」


大きい船?


いっちゃ悪いがこの島は結構な田舎だ

必要物資だって自ら買いにいかなくてはならない


だから貿易船はこないはず、なんだが…


アルトの視線の先にある船

その船には大きなカモメと、大きな"MARINE"という文字が


「わぁー…すごーい!ねぇねぇ、見に行っても…」

「アルト」

「?」

「ちょっと出掛けてきなさい」


辺りの重々しい空気

珍しくアルトが無言で頷いて従ったのは、子供ながらにこの空気を感じたのだろう



















「…………てめぇらもどっか行ってろ」

「断る」

「……というか、なんか心当たりあるの?」

「あ?」

「だって海軍見て顔色変えたから」

「………さぁな、そっちはどうなんだ」

「へっ、知ってんだろうが」

「ありすぎて逆にわかんないね」


おれらの手それぞれに刀が握られている

何しにきたか深くはわからないが、少なくともやつらはおれらを"悪"として見ているのはわかっていた


ドンドン


「失礼ー」


気の抜けた声と共に開けられた扉の奥には一人の海兵


「………あんたが来るか?普通」

「お前さんほどの人間を捕まえるにはこっちも苦労すんだよ」


大柄の男

額にはアイマスクが付いていて


「ま、お前で嬉しかったよ………クザンさん」

「"さん"なんて止めてくれ、そんなまともな人間じゃねぇよ」


今思い出すと、あの人はもうこの時点で諦めていたんだろう

そのあと突きつけられた条件をなんの抵抗もなしに受け入れたんだから


「なに、それ…!」

「……っざけんな!そんな条件…!!」

「いいよ」

「「リダムさん!」」

「交渉成立ー、いやーよかった。あんたを倒すのは骨がいるからね」

「じゃあ、あとから船行くから」

「はいはい、逃げないよーにね」


戦うこともできず、大切な人が奪われる

これほど悔しい思いは初めてだった


「な、に…考えてるんだ!!」

「優しいなぁ、クザンさんは」

「おい!聞けよ!」



「…ホント、優しすぎるくらいだ


別れの挨拶の時間をくれるんだから」

「………ッ!」

「…バ、カ…だ!あんたは…!」

「おう、おれは親バカだ」
























守りきれなかったのはたくさんある

リダムさんに

いつも通りの日常

そしてアルトの笑顔



そのくせ、あの人は守りたいものをすべて守っていった


「条件って、いうのは…?」

「……………詳しい目的はわからねぇが、海軍はあの人を捕まえたかった」




『おれさぁ、戦いたくないのよ』

『奇遇だな、おれもだ』

『だからさ、



あんた一人の身柄で、そいつら二人の確保、免除してやるよ』







「………こういう訳で、アルトの親父はいなくなったんだ」


話していたおれまでもが黙り、静かになる

聞こえるのは二回で荷物を詰めているアルトの声だけだ


「………もっと、聞きたいことは?」


落ちるタバコの灰を見つめながら呟く

暫くの沈黙のあと、オレンジ髪の姉ちゃんが小声で聞いてきた


「……あなたたちが、海軍に狙われた理由は…」

「おれとマイルは昔、そこらじゅう暴れまわってたからそれだな

あの人は………昔、海軍だったらしい」

「なんで海軍が海軍を捕まえるんだ?」

「あの人が本部から逃げ出したから」


そう、多分それが原因だ


だからあの海兵の名前も知ってたし、懐かしそうに話もしてた


「…………他は?」

「………さっき、刀のこと聞いたが、なんか関係あんのか?」


緑色の目付きの悪い兄ちゃんが聞いてきた

それに答えようと口を開いたが






「おっ……ま、た…せ!!」

「準備できたよー」


タイミング悪く二人が戻ってきてしまい話はここで終わってしまった

大きい荷物を抱え、少し疲れ気味のアルト


今、こいつが笑ってられるのはおれらのお陰じゃない

ただ単に時間のお陰だ

長い年月はアルトの涙を止めるには十分な時間だったから


「何か話してたの?」

「………いや、昔話を少しな」

「…………あぁ、話したんだ」


すっかり短くなったタバコ

差し出された灰皿を礼を言いながら受けとる


「ナミさん、この量船に乗りますか?」

「えぇ、大丈夫よ」

「アルトちゃん!重いでしょ、おれが持つよ」

「…しっかし、結構な量だな」

「荷物、殆ど持ってきちゃいましたから」









「………ふふふ、今の心境は?」

「………親鳥、か?」

「ま、そんなとこだね」


あの笑顔にまた暫く会えないと思うと寂しいが、どこかで笑っていてくれるなら…まぁ、いいだろう


「おい」

「あ?」


麦わら帽子を被った男がいつの間にか目の前に来ていた

そしてアルトにも負けないくらい輝かしい笑顔で


「話、よくわかんなかったけど、安心しろ!おれらはアルトと一緒に戦ってくから」


にしし、なんて笑いながら向こうで騒いでいるアルトたちのところに行く麦わら帽子


「………話し方、下手だったのかな、おれ」

「ハッハッハ!さぁね」


おれらよりも年下に任せるのは不安だったが、きっと大丈夫だろう





不安+笑顔

=任せた



(一緒に戦う、か)(ん?どうしたの?)(なぁ、マイル…もう守られんのも飽きたよなぁ)(……あぁ、そういうこと)


(暴れてこそ男だ)