いつもと違う彼女
うおぉおおぉおおぉぉぉおおお...!!なみ、ずわぁーん゛!!!
メリー号に男の泣き声が響き渡った。堪えようともせず、涙を大量に流す男にビビは頬を引きつらせた。心配なのはわかるけど、
「ビビちゅわ、ぁ゛ん...ナミざっ!死んじゃ......!!」
「だ、大丈夫よサンジさん。きっとただの風邪だわ」
「ナミ、元気の出るキャプテーンウソップ伝説を話してやろうか?」
「そ、それはナミさんがまた元気なときにやりましょ?ね?」
「ナミ!暑そうだな、水ぶっかけてやろうか?」
「...っだぁぁああ!もううるさい!!!」
ごんっ
がんっ
...バキィ!!!
「でも本当にナミさん辛そうだわ...どうしよう」
「ビビさーん、おれらの頭も辛いでーす」
「違うぞウソップ!これはビビちゅわんからの愛の拳なんだ!むふふー!」
「キモッ!!!」
「なんで殴るんだよビビィー」
「「お前は殴られても仕方ない」」
「なにぃ!!?」
仲良く並び、頭にこぶを乗せた三人を華麗に無視し、ビビはナミに渡していた体温計を取り出した。そこに記されていた数字の高さに目を丸くする
声を上げかけたが、後ろの三人が騒ぐのは目に見えていたので飲み込んだ
ここまできたらただの風邪じゃないわ...でも私、医療の知識なんてないし、他の人たちにも期待は...
事実だが失礼なことを考えるビビはチラリと視線を横に向けた。そこにはナミを見つめ固まるアルトが
固まる彼女の顔には先程自分に見せてくれた笑顔はない。しかし泣き顔もない
いつもころころ変わる彼女の顔が、無表情のまま動かないのだ(こんなアルトさんに、なんて声をかければいいの...?)
戸惑っているのはビビだけではなかった。後ろで騒いでいた三人も、
「どうしたアルト腹でもいてぇのか?うん(((ゴスッ!!!)))
......麦わら帽子の男が一人、地に伏した
「お水、変えてくるね」
そう言って部屋を出るアルト。足取りはしっかりしているが、笑うことも泣くこともしない彼女に皆が顔を見合わせる。いつものアルトじゃねぇぞ
「アルトの奴、どうしたんだ?」
「ナミさんを心配してるに決まってんだろ。ぐすっ」
「アルトさん、大丈夫かしら......」
「トイレ行ったんだろ?大丈夫じゃねーの?」
鈍い音が再び、メリー号に響いた
ばたばたと騒ぐ中と違い静かな外では、見失うことのない大きな雲を見つめ、ゾロがダンベルを持ち上げていた
航海士が倒れた今、彼女の代わりに舵を見ているのである
進行方向に問題はねぇな。と、本人は思っているが形も位置も変わる雲を目印にしたところで意味はない
彼の方向音痴の原因が垣間見えた瞬間だった
そんなゾロの後方で扉の開く音がした
「......ん?アルトか」
部屋から誰かが出てくる気配がしたため、後ろを振り返る。振り返れば、水を変えるために出てきたのか、桶を持ちながら立っているアルトがいた
何も言わず、表情も動かさずの彼女にゾロも顔をしかめた。相変わらず、わかりやすい奴...
この場から去る前にアルトを捕まえる
「心配すんな...ってのは無理かもしんねえけど、し過ぎんじゃねぇぞ」
”ただの”風邪なら、死ぬことはねぇんだから
その言葉はあえて言わなかった。わざわざ言ってこいつに余計な心配をかけさせる必要はねぇ
そうしていつものようにこいつの頭を撫でてやる。するとアルトはいつものように顔を上げ、
「うん、ありがとゾロさん」
小さく、笑った。 無表情から漸く笑顔に変わったが、
そんなアルトを見て、ゾロは頭を撫でていた手を止める
大丈夫だよ、そう言って水を変えに駆けていこうとする彼女を再び引き止めた
「ぅ、わぁ...!?ちょ、ゾロさ、水がこぼれちゃうって...」
「.........こぼせば、いいだろ」
「え?」
自分の声とは思えねぇ、小さく弱々しい声に、おれ自身が驚いた
ため込むくらいなら、思いっきりこぼせよ
「......いや、なんでもねぇ。引き止めて悪かったな」
頭を掻き視線を逸らしながら言うゾロに、アルトは首を傾げるも特に何も聞かず、そのままキッチンに入っていった
彼女の姿が完全に消えたところでゾロは大きく舌打ちをし、その場に座り込む
あ゛ー、くそっ
いつもは何も考えてねぇバカのくせに、どうして急にそうなんのかな、テメェはよぉ...
何でもねぇわけなかった
言いたいことも
思ったことも
たくさんあった(あった、)(...んだけどよ)
大きな大きなため息を一つ。このあと目を覚ましやってきたナミに「あんなもの進路の目印にしてんじゃないわよ!」と、怒鳴られる原因となる雲を見上げながら、また一つ、ため息をついた
アルト+えがお
=違和感
(静かに笑ったあいつの顔)(明らかに無理をしているそれを見て、)
(怖い)(その感情だけが浮かんできた)
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