フロイド先輩を無意識に目で追うようになったのは、いつの日からだっただろう。

変わった人だから。独特の喋り方をするから。わたしのことを変なあだ名で呼ぶから。背が高く、人波に紛れていても一目で彼だとわかるから。
単純な好奇心が、わたしの視線を彼のほうへ動かしていたはずが、時が経つにつれ、淡い想いが芽生えていった。とても小さかったわたしの恋心は、気付いたときにはもうどうしようもないくらい肥大していた。彼の姿を視界に捉えただけで胸が苦しくなるし、タイミングが合わずに一度も彼を見かけなかった日も、それはそれでやっぱり苦しいのだ。

「……あのさあ、」

放課後、グリムがマジカルシフト部の練習試合を見に行くと言うので、ひとり図書館に向かっていたところだった。ふと顔を上げると、二十メートルほど前方に、突き当たりの角を曲がろうとしているフロイド先輩の姿があった。ああ、まただ。また胸がぎゅうと握り締められているように痛みだす。

すき。わたしはフロイド先輩がすきなんだ。一緒にいたいし、楽しい話をして笑い合いたいし、ずっとフロイド先輩のことを見ていたいし、わたしのことも見てほしいし、できることなら、触って……手を、繋いだりしてみたい。けれどもわたしは本当はこの世界の人間じゃないし、ここは男子校だし、もしかしたら彼と付き合えるかも、なんて、これっぽっちも思っていない。

考えていても余計に苦しくなるだけなので、一旦フロイド先輩のことは忘れよう。それよりも今は図書館だ。元の世界に帰る手掛かりを、僅かでも得られれば……。廊下を進み、突き当たりの角を曲がり、そのまま進めば目的の場所に辿り着くのだが、角を曲がったところでわたしは何かにぶつかった。

「小エビちゃん、捕まえたー」
「きゃっ!?」

それがフロイド先輩だと認識するのにそう時間は掛からなかったけれど、頭の中は真っ白だった。考えたことすべてが蒸発して消えていく。ずっと前に通り過ぎたと思っていたのに、どうして。近い。なんで。嬉しい。苦しい。

慌てて距離をとろうとしても叶わなかった。フロイド先輩の手が、わたしの腕をしっかりと掴んでいたからだ。それから彼は腰を落とし、目線をわたしの高さに合わせてくれた。

「……あのさあ、オレ、ずーっと言いたかったことあるんだけど」

明度の異なるふたつの金色が、真っ直ぐにわたしの姿を捉えている。

「小エビちゃん、いつもオレのこと見過ぎ」
「……すみ、ません」
「そんなにオレのこと好きなら、見てるだけじゃなくて、さ」

腕をより一層ぎゅっと掴まれたと思ったら、唇に熱く柔らかいものが押し当てられた。しっかりと重なって、離れる瞬間に、下唇をぺろりと舐められた。目の前には、満面の笑みを浮かべながらわたしを見つめているフロイド先輩の顔があった。

「オレも好き」

あは、小エビちゃん顔真っ赤だねー。
そんな楽しそうな声がぼんやりと聴こえてくるが、腰が抜けて座り込んでしまったわたしは、しばらくその場から動けなかった。
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