「ふなっ!? ま、また負けたんだゾ……」
「っしゃ! どうだ、もう一回相手してほしいか?」
「ぐ……も、もう一回なんだゾ!」

オンボロ寮の談話室に賑やかな声が響いている。グリムやゴースト達はおしゃべり好きなので、普段の談話室も全くの無音ということはないが、友人が訪ねてきてくれるだけでこんなにも活気溢れる空間になるのかと、少しだけ驚いた。

「なー、デュース達もまた一緒にやろうぜー?」
「十回もやれば流石にもういいや」

先程から、グリムとエースはトランプに夢中になっている。わたしとデュースも最初は参加して四人で楽しんでいたのだが、同じルールで繰り返し遊んでいるうちに満足してしまった。壁際のソファ、デュースの右隣に腰掛けながら、飽きずにゲームに熱中している相棒と友人の姿をぼんやりと見つめていた。

「よし来た! 今度こそ俺様が勝つ!」

グリムもエースも、思っていることがそのまま顔に出るから面白い。くるくると変わる表情を見ていると、こちらまで楽しい気分になってくる。ふふ、と思わず笑みがこぼれたのを、隣に座っていたデュースは見逃さなかったらしい。

「随分嬉しそうだな」
「そう見える?」
「あいつらと遊んできたらいい。僕に気を遣う必要はねえよ」
「あのふたりを見てるのが楽しいんだよ」

ソファに体重を預けて、何も考えずに、楽しそうに真剣に勝負に挑む姿を見ているだけ。例えるならば、リビングでごろごろしながら、金曜日の夜にテレビ放送される映画を観ているような感覚。そう、彼らの勝負は、エンターテインメントなのだ。
そんな軽い気持ちで返した言葉に、デュースはしばらく返事をくれなかった。少し考えこんで、それから意を決した様子で、わたしのほうに向き直りこう言った。

「ふたりをっていうか、エースを、だろ?」

エースを、何だって?
デュースの真意がすぐには汲み取れず、言葉の続きを期待したものの、わたしと目を合わせるとすぐに逸らされてしまった。重力に従って俯いた顔にかかる前髪の隙間から、スペードのマークがちらりと覗いている。

「……エースを、見てるときの顔が、いつもと違うような気がして」

彼らしくもない、消え入るような小さな声で呟かれた台詞だった。

「何それ。気のせいだよ」
「……ならいいけど」

なら、いいのか。
デュースは相変わらず目を合わせてくれないが、耳が赤くなっていた。そんな台詞で、そんな反応をするってことは、もしかして、もしかして。デュースは、わたしを――自惚れかもしれない。けれど、もしそう思ってくれているのなら、嬉しいし、そうだといいなと素直に思った。あのね、デュース。言いながら、ソファに座り直すふりをして、彼との距離を少しだけ詰める。

「……ふたりを見てるのも楽しいけど、それよりも、デュースの隣に座っていることのほうがすきかな」

グリムとエースは大声を出しながらゲームに没頭していて、こちらには目もくれていない。賑やかな談話室の片隅で、ひっそりと、淡い想いが色づこうとしていた。
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