「…大丈夫だったか?」

「ん、平気」


明かりを落としたホテルの一室、ベッドの上、シーツの海の中。息を整えながら、目の前の愛しいひとの顔を見つめる。ひとたび瞳を閉じれば、部屋を包み込む優しい闇が私たちを奪って、そのまま溶けて消えてしまいそうな気がした。まだ。まだ彼の腕の中で、溢れるほどの愛を感じていたい。しっとりと濡れた身体を彼のほうへ寄せれば、彼の優しい手が私を抱き寄せて、ふたりの距離が限りなくゼロになる。先程まで続いていた行為を思い出して、胸がじわりと熱くなった。


「ねえ、今日は楽しかったね」

「なまえと一緒なら、何でも楽しい」

「…そういうことさらりと言えるの、蒼也の凄いところだよね」

「今日は良いもの見られたしな」

「あ、あのイルミネーション?」


クリスマスイブの夜に出掛け、食事をし、綺麗なイルミネーションを堪能する――世間一般の恋人同士間で行われるような過ごし方とは、私たちは無縁だと思っていた。互いにイベント事ではしゃぐような性分でもないし、去年はちょうど彼の近界遠征が重なってしまったから、特別なことは何もしないまま年明けを迎えたのだけれど。今年はふたりとも休みがとれて、折角だから一緒に出掛けよう、と誘ってくれたのは意外にも彼のほうだった。

人混みの喧騒の中で、はぐれないように、手を握って歩いた。私よりも少し背が低いけれど、彼の手も背中も歩幅も、私より大きいことにふと気が付いた。夜を照らす電飾の輝きは美しく、星空が手の届く位置に降りてきたようだった。しかしそれ以上に、いつもよりも近い距離で見る彼の横顔のほうが、ずっとずっと美しかった。今日はイブで、ここはちょっと有名なデートスポットで、誰もが隣に寄り添う人の顔しか見ていない。人目につかないのを良いことに、夜の空気に晒されて冷えた彼の頬に、私は何度もそっと唇を寄せた。

それからホテルに移動して、お洒落なレストランで食事をして、このまま一晩ここで過ごすことになる。楽しい時間はあっという間に過ぎていくけれど、彼の行動や言動ひとつひとつを思い返して、あたたかく満ち足りた気持ちになる。再び彼の瞳を見つめて、質問の答えを待つ。


「いや、違うな」

「そっか。蒼也の見た良いもの…何だろう」

「なまえの嬉しそうな顔だ」

「え!」

「あと、気持ち良さそうな顔」

「ちょ…それは、反則」

「はは、良いだろ、いつも見てるんだから」

「………」

「可愛いんだから、気にするな」


蒼也の愛情表現はどこまでも真っ直ぐだ。彼は公私の別をきっちりとわきまえていて、本部で顔を合わせても必要以上の会話はないけれど、ふたりきりになると恥ずかしげもなく甘い言葉をかけてくれる。それが堪らなく嬉しくて、恥ずかしくて、心地良い。

今日みたいに雰囲気に酔ってしまいそうな日には、彼の言葉に溺れても良いだろうか。彼の言葉に縋りついて、溢れ出る愛しさに泣きたくなるほど胸を締め付けられて、彼に与えられる熱が私を突き動かす。その感覚を思い出し、また彼が欲しくなる。じっと彼の瞳を見つめ続けると、彼は私の欲しいものに気付いてくれたのだろう、深く優しいキスで応えてくれた。唇を重ねながらベッドの中で少しずつ体勢を動かして、彼は私の上に乗る。私の手首は再びシーツに縫い付けられた。


「良いか?」

「良いよ…蒼也、大好き」

「素直ななまえも可愛い。俺も、愛してる」

「へへ、恥ずかしいね…」


彼の指が、舌が、唇が、私をなぞる。押し寄せる快感の波に揉まれながら、ふと壁に掛けられた時計に目をやると、短針の指す文字が十二を過ぎているのに気付いて、メリークリスマス、と呟いた。今夜はもう眠れそうにない。
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