最近、なまえと歌川の仲が良い。菊地原を静かに苛立たせているのは、そんな些細な出来事だった。

なまえは菊地原と付き合っているから、菊地原つながりで風間隊の隊員とも仲が良かったし、同い年の高校一年生ということもあって歌川と話す機会も少なくなかった。しかし、この頃のなまえと歌川の距離感は、今までのそれとは明らかに違う。ふたりは空き時間になるとよく一緒にいるのを見かけるが、菊地原の聴力を持ってしても、ふたりの会話を聞き取ることが出来ない。菊地原に聞こえないよう、あえて遠く離れた場所で会っているとしか思えなかった。さらに、自分にだけ向けられていると思っていた筈の優しい笑顔を、なまえが歌川にも向けていたのを知ってしまったことが、菊地原の箍を外してしまった。


「という訳で、お仕置きね」

「どういう訳!?」


休みと非番が重なって、一日ふたりでのんびりと過ごした日。いつも通り、デート帰りには菊地原の家に寄って、話をしたり漫画を読んだりゲームをしたりする予定だった。

ところが部屋に入るや否や、菊地原はベッドになまえを押し倒す。床に無造作に散らばるかばんには目もくれず、ただなまえだけを貪るように、何度も何度も強引に唇を重ねた。なまえの身体に跨り、手首はベッドに押し付けるように抑え、身動きが取れないようにする。もう逃がさない。


「やだ、いきなり…!」

「なまえさあ、本当にぼくのこと好きなの?」

「好きだよ…?」

「ふうん…それにしては、歌川と仲良しだよね…最近」

「え、何で歌川、」


なまえが反論する間も無く、菊地原は半ば強引にことを進めていく。声を出そうとすれば唇と舌で塞がれ、抑え付けられた身体は微かに捩ることしか出来ない。菊地原に与えられる甘い刺激に、次第になまえも大人しくなる。菊地原はなまえの服の中に手を入れて、下着の上から柔らかな膨らみを揉む。その中へ指を滑らせて、直接素肌に触れることも出来るけれども、今はまだ。下着越しにでもわかる膨らみの中心には、あえて触れずに焦らすような動きに、なまえが明らかに反応している。いつもは濡れた瞳でその先を促してくるなまえに、そうさせないように、菊地原は熱いキスの雨を止めない。これはお仕置きなのだから。


「ん…ん、ああっ」

「なまえが悪い。やめない」


なまえがあげる声にならない声と、密着していると言っても過言ではない距離。故にわかる、彼女の熱と匂いが、菊地原を昂らせた。身体の中心で反応しつつあるものを、わざとらしくなまえに押し付けて、そっと唇を離した瞬間――


「いてっ」

「もう!なに誤解してるのか知らないけど、駄目!」


隙を見つけたなまえは菊地原の肩を押し上げ、彼の腕の中からするりと抜けだした。

なまえはベッドを下りて部屋の隅に座り込む。そして、かばんの中をごそごそと探り、一通の手紙を取り出すと、それを菊地原の目の前に差し出す。


「…なに?これ…」

「手紙だよ。今度また行くんでしょ、遠征」

「…なまえには言ってない、はず」

「歌川が教えてくれたの。士郎も風間隊も強いし、無事に帰って来るってわかってるけど…やっぱり、残って待つ私は心配だから」

「………」

「歌川にいろいろ相談しててさ、士郎が貰って喜ぶものとか…心がこもってて遠征に持って行けるものとなると、やっぱり手紙かなって…」

「それで、ぼくにばれないようにふたりで話してたってこと?」

「あ、うん…そうだね」

「はあ…馬鹿じゃないの」


菊地原はなまえから手紙を受け取ると、そっとテーブルの上に置いた。そして、なまえを抱き寄せて、今度は触れるだけのキスをした。


「ぼくが負ける訳ないのに」

「それはそうだけど」

「なまえ、…ありがと」


なまえが歌川に眩しい笑顔を向けていたのも、菊地原を話題に出していたからだと知って、菊地原は情けなくなる。要らぬ心配をするなまえも、ぼくのことを想ってこそこそ行動していたなまえと歌川も、それに嫉妬したぼくも、みんな馬鹿だ。けれども、そんな気持ちさえ愛おしく思える。苛立ったり、喜んだり、ぼくの感情の中心にはいつだってなまえがいる。菊地原はそう思って、柄にもなく微笑んだ。そして、そんな表情を悟られまいと、なまえを優しく抱きしめて顔を見られないようにした。


「ところでさあ…これ、どうしてくれる」

「え、わからないよ…さ、触るのも、見るのも、慣れてないんだから…」

「じゃあ慣らしたほうがいいね」

「恥ずかしいからやだ…!」
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