大地を覆っていた魔族の気配が消え、平和が訪れてから、少し後のこと。

大地に暮らす事を決めたリンクとゼルダは、大地に溢れる豊かな自然は残しながらも、やがて他の人間達も大地で暮らせるように、亜族と協力して都市建設に尽力していた。まだ都市と呼べるほどの規模も機能も無いが、スカイロフトの友人達――リンクの親友であるバドやセバスン、ゼルダの親友であるなまえなど――は、時間を見つけては大地を訪れるようになっていた。大地の魅力に惹かれ、質素な小屋を建てて大地に住み始めた者もいる。住人同士で持つ物を交換し合い、小さな経済も回り始めている。大地は、確実に動いているのだ。

人間と亜族が、大地でも空でも自由に暮らす事が出来れば良い。そんな願いから大地と空を繋ぐ石像を解放したリンクとゼルダであったが、ゼルダはふとした瞬間に、最終決戦の前に魔族長が遺した言葉を思い出すのだった。


「魔族と人間の共存」

「俺ももう戦争は望んでいないんだ。お前に消滅させられたあの方を復活させられたなら、俺は武器を捨てる」

「俺はこれで終わりにしたい。小僧を殺す気も、魔族が支配する世界を作る気も無いんだ」



(きっと彼の言葉に偽りはなかった。もし魔族も共存を望むのなら……)


しかし魔族はもうこの大地にはいない。ただ、魔族を封印したマスターソードの周囲に、微かに気配が残るだけだった。

この日、大地を訪れたのはなまえひとりだった。普段は四、五羽のロフトバードが隊列を成し大地に降りてくる。今日は何か変わった事でもあったのだろうか。たった一羽で空を走る彼女を見つけたリンクは、彼女の下へ駆け寄った。


「なまえ!来てくれたんだ」

「リンク……」


見れば、明るく無邪気ないつものなまえとはどこか様子が異なる。取り戻す事の出来ない大きな過ちを犯してしまった時のように、その顔には色が無く、これから彼女が口にするのは何か深刻な言葉だろう、と予測がついた。リンクはなまえの傍へ歩み寄り、手を差し出そうとする。するとなまえは顔を手で覆い、指の隙間から涙をぽろぽろと零し始めた。


「…………」

「大丈夫か、なまえ」

「ごめんね……リンク、私、貴方を殺したの……」


なまえ、一体何を言っているんだ、僕は生きているよ。

なまえにいくら言い聞かせても、なまえの涙は止まるところを知らない。リンクが困惑していると、二人の声を聞き付けてゼルダがやって来た。


「なまえ、突然どうしたの?リンクはここにいるわ、だから悲しまないで、ね?」

「違う、違うの」

「なまえ、」

「……殺すつもりは無かったの。ただ、魔力が制御出来なくて、気が付いたら私、リンクを……」


ゼルダはその言葉に聞き覚えがあった。


「……もしかしてなまえ、ギラヒムという名前を聞いた事がある?」


なまえは最近良く夢を見るようになったのだという。戦火に包まれた大地、魔力を持つ私、私に指示をするギラヒムという男。全てが現実ではない筈なのに、頭の中に映し出される映像は驚くほど鮮明だった。所詮夢の中の妄想に過ぎない、と切り捨てて忘れる事が出来ない一種の懐かしさもあった。そして今朝の夢の中で、なまえはリンクに良く似た男と剣を交え、その男を殺してしまう場面を見たのだった。

そのときなまえは、自分が数千年前の時代に生きた魔族のなまえの生まれ変わりであることを知った。頭の奥深くに眠っていた、太古の記憶もぼんやりと蘇ってきた。その後ギラヒムと共に暮らし、魔族と人間との共存を願いながら息を引きとったなまえは、確かに私だったし、今の私そのものだ。大地にいる友人達にこの事を伝えなければ。その一心で、ひとりで大地に足を運んだのだった。


「私は魔族だった……でも、今まで17年間ずっと、騎士学校の生徒で、リンクとゼルダの友達だったの……」

「そうだよ、なまえ」

「前世なんて関係ないわ」

「僕が女神軍の兵士で、なまえが魔族のなまえで、ゼルダが女神ハイリア……」

「え……」

「なまえ。私達、ずっと昔から一緒にいたのよ」


リンクとゼルダは、なまえに一体大地では何が起きていたのか、知り得る全てをなまえに話した。大地でゼルダを探すリンクが、ギラヒムや終焉の者を倒すために戦っていたことは、スカイロフトの仲間たちには詳しく話していなかったのだ。

黙って耳を傾けていたなまえは、二人の話が終わると慌てて立ち上がり、走り出した。


「ありがとう!私、ギラヒムのところへ行かなくちゃ!」


なまえは走った。人生の殆どをスカイロフトで過ごしてきた筈なのに、大地を蹴り上げる足の感触がどこか懐かしい。彼と一緒に過ごした大地。所詮前世の記憶、されどそれは親友も恋人も皆が知る私の記憶。もしかしたら、前世の――貴方の恋人だった――なまえとは見た目が違うかもしれないけれど、きっと気付いて抱き締めて優しく口付けてくれるよね。

息を切らして辿り着いた先に見えた見慣れた白に、私は勢いよく抱きついた。
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