月がぼんやりと大地に光を落とし、街が静寂に包まれる時間。食事を終えて片付けをしていると、腰にギラヒムの腕がそっと伸びてきて、後ろから抱き締められた。こうして甘えてくるのは珍しいことではないが、今朝あんな出来事があっただけに、多少なりとも彼の心も揺れ動いたのだろうと思った。寂しさや不安を覚えるとき、彼は顔を見せないように甘える癖がある。


「なあに?」
「今朝あいつに会って、どう思った?」


あいつ、はきっと女神の騎士リンクのことだろう。彼の心情や行動なら容易に予測できる自分に思わず微笑んでしまう。


「最初は攻撃されたらどうしようって怖かったけど、……向こうは、私達のこと恨んでないみたい」
「………」
「私ね、ギラヒムが好きなの」
「なまえ、」
「貴方の希望が叶わなかったのは悲しいけど、こうして貴方と一緒に平和に暮らせるのが嬉しいから、もう彼と戦って欲しくない、な」


戦う彼の背を見つめるとき、私はつねに不安の中にあった。彼と同様に勝利を望む気持ちを抱いてはいたけれど、勝利を望んでいたというよりは終戦を望んでいた。彼が傷を負わないうちに、命を落とさないうちに早く終わってほしい、と思い続けていた。 もしかしたら、女神と女神の騎士も、同じような思いを抱いて戦っていたのではないだろうか。今朝の彼等、――私達と同じように二人で幸せな新生活を送る姿を見ていたら、そう思いたくなった。

柔らかな日差し、鳥のさえずり。木々の香りを運び吹き抜ける風。夜の闇でさえ、大地を穏やかに包み込む母なる海のよう。世界がこれ程までに優しいものだったなんて、戦禍にあったときは気付く筈もなかった。今の世界が、生にとって望ましい世界。この結末に辿り着くのは必然だったのだろう。と、魔族らしくない思考を巡らせた。


「復讐は、しない」
「よかった」


ギラヒムは腕を緩めて私の腰を回し、向き合う体勢になる。やっと顔を見せてくれた。
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -