スカイロフトは朝が好きだった。

鳥たちの勇ましい声ですっきりと目が覚めたら、少し音を立てて開く木枠の窓に手をかけるのが日課だ。開け放つ窓から、澄んだ空気の中を駆け抜けて花の香を運んでくる風が吹き込み、最高に気持ち良い。朝食は毎朝配達される美味しいかぼちゃスープ。瓶を片手に、今日は何をしよう、ちょっと遠くの島まで行ってみようかな、なんてあれこれ考える時間もとても楽しかったのだ。


「おはようナマエさん」


しかし、このところわたしの爽やかな朝は、騎士学校の男の子――リンク君によって妨害されることが多くなった。


「勝手にわたしの家で寝るのはもうやめてくれない?」
「お邪魔しますって毎晩言ってますよ?」
「夜中に来たって聞こえないでしょう、寝てるんだから」
「酷いなあ、耳元で言ってたのに聞こえないのかあ」
「耳元って……!」


彼は、夜中に(わたしが眠りについた後で)私の家に来るようになったのだ。ある日目が覚めると、目の前に異性の寝顔があるのだから驚いた。しかもその悪戯の犯人は、あまり話したことはないけれど、学校一のイケメン学生だと評判のリンク君。気が動転して、何をしでかしたかは覚えていない。いろいろ投げた気がする。とにかく、騒ぎを聞き付けたご近所さんがみんな一斉に集まって来て、それはそれは恥ずかしい思いをした。家に遊びに来たいのならわたしが起きている間にしてちょうだい、と頼んでも、彼曰く「ナマエさんの寝顔が見たいから」だめらしい。

朝が好き「だった」のは完全に彼の所為だ。

でも彼のしてくれる話は結構面白かったりするのだ。雲の下には大地と呼ばれる世界があって、そこにはスカイロフトよりも豊かで美しい景色が広がっているとか。幼馴染みのゼルダちゃんを助けるために、今は大地で三つの炎を探しているとか。その辺の小説家よりもロマンのある話をしてくれるから、退屈はしない、むしろ楽しいのだ。しかしだからといって、そう何度も無断で隣に寝られては困る。


「リンク君、寮に自分の部屋はないの?」
「ナマエさんが可愛いから、ここに来たくなるんです。良い匂いするし」
「可愛いを乱用しちゃだめよ」
「いやマジで可愛いっす、てか、好きです」
「もう!ゼルダちゃんが帰ってきたら全部教えちゃうからね」
「良いですよ、彼女はただの幼馴染みなんで」


あれ、リンク君とゼルダちゃんは両想いじゃなかったの?小さい頃から仲良かったし、クイナもあんなに分かりやすいふたりは他にいないわね、って……


「お姉さんをからかうものじゃないわ」
「からかってません」
「え、ちょっと」


気付いたときには、椅子に座っていたはずのリンク君が、わたしのベッドに腰掛けていた。一人暮らしだしとくに寝相も悪くないから、と購入した小さめのこのベッドがあっという間に窮屈な空間になった。彼の、男の人の顔が今までにないくらい近くにあって、風の音も鳥の鳴き声も聞こえない。この世界にはわたしの鼓動だけが響いて、時の流れが止まってしまったようだった。


「さっき告白したんだけど」
「えっ」
「あはは、顔真っ赤」
「えっと、」
「まあ予想はつくけど、返事は今度聞かせてよ」
「……」
「本気だから、さ。好きだ」


低くて真剣な声。伏せていた目をはっとあげると、そこにはもういつもの悪戯好きの年下の男の子はいなかった。重なる目が離せなくて、緊張して、すこし息苦しくなった。でもすぐにリンク君は笑顔になって、「また来るね」と言って行ってしまった。今朝の、それも数十分の出来事にこんなにも心を奪われるなんて。

スカイロフトの爽やかで平凡な朝はきっともう戻って来ない。でもそれは以前とは違う、優しい期待で満たされた気持ち。彼はいつ来るかな。高鳴る鼓動の音さえ心地良いものに感じながら、わたしは部屋の掃除を始めた。
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -