正午を告げる鐘がスカイロフトに響き渡った。

ショップモールの一角にある小さな食堂は、昼食時になるといつも大盛況。仕事の手を休めに来る人々はもちろん、騎士学校の給食に飽きた学生がこっそり学校を抜け出して訪れることもある。華やかに賑わうモールの雰囲気の中で食べる料理は格別に美味しい、と人々は口を揃える。しかし、今日の食堂はいつもと様子が違うようだ。


「あれ誰だよ?」
「初めて見た」
「待てリンク、よく見たらめっちゃ可愛いぞ……ゼルダほどじゃないけどな」
「……ほんとだ」


校則を破り学校を抜け出して来ていたリンクとバドは、食堂の奥で調理をしている女性に視線を移す。長年食堂をひとりで切り盛りしてきたジョナの後ろ姿とは似ても似つかない華奢な背中で、いくつもの大鍋をせわしなく動かしている。時折見える整った横顔が美しい。今は地上に暮らすゼルダに相変わらず熱をあげている筈のバドだけでなく、リンクも彼女から目が離せなくなっていた。


「お待たせしました」


彼女は出来たての温かい料理を丁寧にテーブルまで運んできた。初めまして、よろしくお願いします。と笑顔で挨拶をした彼女は、ゼルダとは違うタイプの「可愛い」女の子だった。


「ジョナさんは?」
「あ、いまジョナさんとガル君が地上に旅行中なので、その間だけ短期アルバイトとして働いております。ナマエと申します」
「ナマエちゃん。よろしくね」
「おい、なんかいつもの料理より美味いぞこれ!早くリンクも食えよ」
「嬉しい。ありがとう」


ナマエはそう言いながら柔らかく眩しい笑顔を二人に向けたあと、他のテーブルへ向かって行った。食堂の常連客とはすでに親しくなっているようで、ナマエは彼らと楽しそうに世間話をしている。その様子をぼんやりと見つめるリンクの顔は心なしか赤く染まっている。


「大丈夫かリンク」
「いやだめかも」
「あんな可愛い子がスカイロフトにいたなんてな」
「うちの学生じゃないよね?」
「ああ違うな、ゼルダがいなくなって女の子がクラネ先輩だけになっちまった!って皆でしばらく騒いでたから」
「……仲良くなりたい」
「応援するぜ」


ナマエちゃん!バドが彼女をテーブルへ呼んだ。リンクは心の準備が出来ていないのか、顔を真っ赤にして動揺している。そんなリンクの狼狽ぶりは、つい先日まで世界を救う為に奮闘した空の勇者とは思えないほど懦弱に見えた。


「はい!どうなさいました?」
「…………」
「ご注文ですか?」
「おいリンク」
「……あの、可愛いから……持ち帰って、食べちゃいたいです」


リンクの思いがけない発言にバドは言葉を失った。初対面の相手にそんな最悪発言、持っているお盆で殴られるぞ……。とバドが心配したのも束の間、


「すみません、この食堂では料理の持ち帰りは出来ないんです」


純粋無垢なナマエのおかげで事なきを得た。他のテーブルから声が掛かり、失礼します、と再び笑顔で去っていった彼女の背中はやはり可愛らしい。こんなに純粋で天然な(リンクの発言の意図を汲み取っていたのかどうかは分からないが)女の子と仲良くなりたくない男がこの世にいるだろうか。

バドが騒ぐ声も耳に入らないまま、リンクは、ナマエが働いている間は毎日食堂に通って絶対に仲良くなろう、と決意した。
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