隣で小さく寝息を立てる彼女の髪に指を滑らせ、ゆっくりと撫でる。いとしいひと。一糸纏わぬ姿を見つめ、彼女はまるで陶磁器の芸術品のように美しく、脆いと思った。彼女の体温を肌で感じる時はいつも、切なさで胸が締め付けられる。

彼女は僕の正体を知らない。生傷の絶えない僕の身体を見て、彼女は薄々勘付いてはいるかもしれないが、僕が何の為に何を相手に戦っているのかも知らない。悪に対する獣のように剥き出しの憎悪を隠し、彼女の前では優しく落ち着きのある「大人」を演じるのだ。

もちろん、実年齢よりも精神は七年も若く未熟で、大人びた彼女に相応しい男なんかではないということも、伝えてはいない。知識と成熟した身体さえあればセックスは出来るし、そうして仮面を付けて誤魔化しながら付き合うというこの選択が正しいのかどうか、自問自答しながらつねに自分を責め続けている。それでも僕を「愛しているわ」と言って寄り添ってくれる彼女の笑顔を手放したくなくて、今日も彼女の隣で眠るのだった。いずれ来るであろう、真実を伝えなければならない日のことは、考えたくなかった。


「リンク……」
「ナマエ、起こしちゃった?」
「ううん」


彼女の細い腕が僕の腰をとらえた。ぎゅ、と小さく呟きながら抱きつく彼女が狂おしい程愛しくて、頬を寄せて思わず口付けた。正しいキスの仕方なんて知らないけれど、彼女の柔らかな唇に、舌に触れたいと思うままに何度も繰り返す。塞いだ唇の隙間から時折漏れる彼女の甘い吐息が、更に本能を駆り立てた。


「おやすみ」
「リンク、だいすき」
「愛してるよ」


世界が平和になったら、僕はどうなるのだろう。失われた時間を取り戻さぬまま、彼女と一緒に生きていくのだろうか。それとも、失われた時間を取り戻す為に彼女のいない世界で暮らすのだろうか。どちらも辛い選択肢、今の僕にはただ「今」を精一杯生きることしか出来なさそうだ。

空が微かに光を帯びて来た頃、僕は剣と盾を背負い、ベッドで静かに眠る彼女の頬をそっと撫でた。彼女に何も告げずに戦地に赴くことで、必ず生きて帰る、という一種の覚悟を決めているのだ。行ってきます。そしてまた夜になったら、彼女と優しい時間を過ごすことが出来る、もちろん、仮面は付けたままで。
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